堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第十一話 『眼鏡のあなた』

<<   作成日時 : 2015/10/28 20:49   >>

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第十話『ナグモの涙』
第一話〜第十話

 あらすじ
ナグモが引き起こした神隠し事件が終わり、その結果不思議な共同体となった藤木家。そんなアマトキの下に、遂に衣服が到着する。それを身に纏って散歩に出かけたアマトキは、そこで運命的な出会いを果たす。しかし、その一方彼女の身を苛む何かが、現れようとしていた。



 登場人物

 アマトキ
 慶介の願いに呼応して降臨した、忘れられた神。遂に衣服を得て、自由の身に。

 藤木慶介
 一人暮らしをしていたが、アマトキを呼びだしてしまった事で、厄介事に巻き込まれる事に。

 天鈿女
 アマトキを勧誘しに来た神様。その目論見は潰えたが、アマトキを監視するという名目で居候することに。今回は、出番がない最下層の住人。

 ナグモ
 慶介に憑りついている土蜘蛛。念願かなって、慶介と共に暮らす事が出来るようになった。アマトキの面倒を一番見ている、藤木家のお母さん。




   第十一話『眼鏡のあなた』



 ナグモが引き起こした慶介の神隠しは、宇美町を守護する母神の介入によって収束し、結果ナグモは慶介と共に暮らす事となった。
 現在藤木家は、一人の人間、二柱の神、そして一匹の妖で構成されている。
 家の主である藤木慶介。その慶介の願いに呼応して降臨した、忘れられた神アマトキ。アマトキの監視という名目で居候している天鈿女。そして、藤木家に憑りついている妖であるナグモ。
 慶介がアマトキと出会って三日目には、このような不思議な共同体が出来上がっていたのであった。

 慶介は、居間で一波乱あっているのを尻目に、出社。その後、一波乱を起こされた方の天鈿女は、異界を経由して東京の学校へ。福岡から東京という距離であるが、異界を経由できる神には、現実世界の距離など無意味。福岡から東京まで徒歩五分である。
 家に残ったのは、アマトキとナグモのみ。アマトキは、座椅子にだらしなく座って、慶介の持ち物であるゲーム機で遊んでおり、ナグモはせっせと掃除、洗濯をこなしている。
 二階建ての一軒家。慶介はマメに掃除をする方ではないため、結構汚れており、外も雑草が生い茂っていた。ナグモは、それらを嬉々として片づけていた。慶介のために働けることが、彼女にとっての生き甲斐でもあるからだ。
 アマトキが遊んでいても関係ない。ナグモにとっては、アマトキは介護が必要な母親のようなものであるからだ。
 故に現在の藤木家のヒエラルキーは、慶介>アマトキ>ナグモ>>(越えられない壁)>天鈿女であった。

 来客を告げるチャイムが鳴る。
 ナグモが応対する。配送業者の若い男は、ナグモの美しさに驚きながら荷物を渡し、サインをもらって、にこやかな笑顔と共に帰って行った。
 届けられた荷物は、一抱えほどある段ボールの箱。二日前に注文しておいた衣服が届いたのである。
 段ボールの箱は、ナグモが鋭利な爪を伸ばして、開封してくれた。彼女が居れば、カッター要らず、である。
 ナグモが、二階の畳の部屋に置いてあった姿見を持って来て、アマトキは早速届いた衣服を嬉々として身に纏った。
「ナグモー! 青いワンピースだぞー!」
 青というよりかは、どちらかというと水色に近いワンピースを纏い、アマトキがクルクルと舞う。そして、足をもつれさせて倒れた為、ナグモがそっと抱き止めた。
「どう? 可愛い?」
「えぇ、とてもお似合いです」
 ナグモに抱き止められたままのアマトキに、彼女はそう答えた。

 ジャージ姿を卒業し、洋服と下着を手に入れたことで、アマトキは外に出かける事が出来るようになった。
 早速、ナグモと共に散歩へ出かける事に。目的地は、塔ノ尾公園である。
 慶介の家から塔ノ尾公園までは、徒歩で大体二十分程度。アマトキが上機嫌で先頭を歩き、ナグモがその後ろを付いて行く。
 水色のワンピースを揺らしながら、アマトキは歩いている。時々、後ろを振り返ってはよろめく彼女を、ナグモがその度に抱えつつ、無事塔ノ尾公園へと辿り着いた。
 塔ノ尾公園の入り口には、有酸素運動を説明した看板が立っており、そこから塔ノ尾公園を挟んで、道が二手に分かれている。
 目の前は、断崖絶壁。
 アマトキは、塔ノ尾公園を見上げる。
「改めて見ると、全く違うね。原形がない」
 アマトキは続いて、左側を見た。
 使われていない寮の間から見えるのは、田んぼ。それを過ぎた先に朽ちた民家と橋。その先は住宅が密集し、最後は山に遮られる。
「まるで違う世界」
「千年以上、経っていますから」
 アマトキは、郷愁にかられていた。

 足を止めて風景を見ていた二人。そこに、塔ノ尾公園を周回する道から一人の女性が歩いてきた。すらりとした長身。メガネをかけている。年は、二十代半ばか後半ぐらいか。彼女は、アマトキとナグモを認めて、歩を止めた。
 アマトキとナグモは、そんな女性に気付いて視線を向ける。アマトキは、すぐさま目を丸くした。
「これが僥倖……という奴なのね」
「えっ?」
 女性は、アマトキが何を言ったのか聞き取れていなかった。
「アマトキ?」
 ナグモが、アマトキを心配する。
「ん、なんでもない」
 アマトキは、女性の前へと歩いていく。
「こんにちは。お散歩ですか?」
 アマトキは、人懐っこい笑みを浮かべる。
「え、えぇ。あなたも散歩?」
「うん。少し曇っているのが残念だけど。お姉さんは、カメラマン?」
 女性は、一眼レフを両手に持っていた。
「そんな大層なものじゃないよ。カメラを買うと友達に言ったら、これを勧められて、使えもしないのに見栄で買っちゃったのよ」
「私も撮って!」
「いいの?」
「お願いします」
 女性は、目を輝かせた。

 アマトキは、思い思いのポーズを取る。女性が嬉々としてそれを撮る。五回撮った所で、女性はそれをアマトキに見せた。
「はぁ、カメラって凄いねぇ」
 液晶に映る自分の姿に、アマトキはとても感動していた。
「それにしても綺麗な青い瞳」
「私の瞳の色は、空の色なの」
「空の色かぁ」
「お姉さん、名前は?」
「私? 私は、斉藤梓」
「私は、アマトキ。こっちは、ナグモね」
 ナグモは、ぺこりと頭を下げた。
「お姉さん、またここに来る?」
「時々ね」
「じゃ、また会えるね」
 斉藤梓と別れる。彼女は、塔ノ尾公園を東から周回する道を通って帰って行った。
 アマトキは、その背が見えなくなるまで手を振って見送った。
「私の子だよ」
「……! そうでしたか」
 ナグモは驚き、それから慈愛に満ちた表情をする。
「何もかも変わってしまったけど、縁(えにし)は続いているんだね」
「そうですね」
「私がしたことも無駄じゃなかった」
 そう口にした途端、アマトキの心臓がドクンッ! と力強く跳ねた。アマトキは胸を抑えて、両膝をついた。
「どうしましたか!?」
 ナグモが慌ててアマトキを介抱する。
「なんだか……嫌な感じがした。でも、多分気のせいだよ」
 アマトキは、額に脂汗を掻いていたが、ナグモを心配させまいと笑って見せた。

 ナグモは、アマトキを抱えて帰宅した。畳部屋に布団を敷き、アマトキを寝かせる。アマトキは、よほど疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。
 ナグモは、心配そうにアマトキを見つめる。
「……何も起こらなければいいのだけど」
 ナグモは居間に戻り、片づけを再開する。他の事を考えて、不安を払拭しようと試みたが、なかなか上手く行かない。
 大きなため息を吐いて、塔ノ尾公園の方角へと視線を向ける。
 この嫌な予感は的中する。
 ナグモは諦めて、それを受け入れるしかなかった。

 慶介が仕事から帰って来た。アマトキは、再び水色のワンピースを身に纏って、そんな慶介を出迎えた。
「どう? いい感じだよね?」
「似合っている」
 慶介は、表情を崩してそう答えた。



 私は、アマトキ。
 我が子に会えた!



 第十二話に続く

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