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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第九話 『妖怪大戦争風味』

<<   作成日時 : 2016/06/08 21:09   >>

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H28年6月8日 文章を調整したため、入れ替えました。


第八話『幻想生活』
1話〜8話


前回までのお話
異界に連れ去られてしまった慶介を追って、天鈿女と共に異界に踏み込んだアマトキ。誰もいない学校で遭遇したのは、モリモリと巨大化する蜘蛛のヌイグルミであった。



登場人物

アマトキ:塔ノ尾公園で降臨した祖霊。長い髪のせいで、自立行動不能という、介護の必要な子であったが、髪を切って自力で行動することが出来るようになった。しかし、長年の介護生活のせいで、体力がない。頭もそんなには良くないが、可愛さを前面に出して、今回も無理な状況に果敢に挑む。

藤木慶介:無自覚であるが、アマトキを目覚めさせた張本人。拉致られているので、今回出番がない。

天鈿女(あまのうずめ):八百万システムなるものに、アマトキを勧誘しに来た神様。なんだかんだで情に流されがちな彼女の不運は、この時からすでに始まっていた。

凪(なぎ):前回のお話の冒頭に出て来た少女。その正体が、今回と次回のお話の二話で明らかになります。




   第九話 『妖怪大戦争風味』




 圧倒的な質感を持って迫り来る巨大蜘蛛。 
 アマトキと天鈿女は、元来た道を戻り、登るのではなく階段を降りた。
「ぬなぁ!」
 階段を降りた所でアマトキが躓き、顔面から廊下へとダイブした。
「ちょっと!」
 少し先を走っていた天鈿女は、慌ててアマトキの所へと戻った。
「走るのは苦手なんだよ〜」
 上の階から、メキョメキョと何かが圧潰している音が聞こえた。階段の幅は、蜘蛛の体よりも狭かった。階段を降りれば、もしかしたら追ってくることが出来ないのでは? 天鈿女は、そう考えていた。しかし先程の音から、蜘蛛は無理やりにでも降りて来ようとしているようだ。
「もう仕方ない!」
 アマトキをお姫様抱っこして、天鈿女は走り出した。
 階段を降りた先は、上と同じく二手に分かれていた。構造が同じならば、右側に折れた先は行き止まりである。
 天鈿女は、左に折れた。するとすぐに突き当たり、左右に道が分かれていた。
 左を確認。下駄箱が見えた。
 右を確認。渡り廊下が見え、奥は別の建物に繋がっているようだ。
 そうしていると、ドズン! という激しい音と共に校舎が大きく揺れた。
「きたきたきた!」
 巨大蜘蛛が階段を無理矢理通り、その勢いのまま窓に突撃している姿を、アマトキが天鈿女の肩越しに確認し、慌てる。
「あぁもう!」
 天鈿女は左に折れた。
 両側に下駄箱が並んでおり、天鈿女は左右を確認しながら中央を走る。そうしている間に、蜘蛛が道を曲がって二人に向かって突っ込んで来ていた。
「突っ込んでくる! 避けて避けて!!」
 バシバシと天鈿女の肩を叩きながら、アマトキは必死に訴えた。
「ぬなぁ!!」
 アマトキに指摘されてそれに気づいた天鈿女は、慌てて右側へと避けた。蜘蛛は、ボーリングのピンを薙ぎ倒す玉のように、下駄箱を薙ぎ払いながら突っ込んできて、そのまま奥の階段に激突した。
 再び激しい振動。
 蜘蛛の突進を辛くも避けた天鈿女は、そのまま外へと躍り出ていた。
 左右は校舎。前方は、運動場へと繋がっていた。
「あっ! まずいかも!」
 運動場に出て、天鈿女は慌てた。
 こんなだだっ広い場所では、逃げ隠れする場所がない。しかし戻ろうにも、奥の階段に激突した蜘蛛が、すでに下駄箱の扉を破壊して外に出て来ていた。
「何とかしなさいよ!」
「無茶を言うな!」
「何か策があったから、ここに来たんじゃないの?!」
「そんなものあるかよ! 私は、非戦闘員だぁ! アンタこそ、強い神様ならなんとかしろよ!」
「私も非戦闘員よ!」
 迫り来る蜘蛛。戦う術(すべ)を持たない二人は、とにかく走った。
「あっちだ!」
 運動場の半ばまで走った所でアマトキが指差した先には、一階建ての独立した建物が建っていた。建物は運動場の端にあり、その建物と運動場と外を仕切るフェンスの間に狭い隙間があることに、アマトキが気付いたのだ。
 天鈿女は、現状どうする事も出来ないので、アマトキの言葉に従って方向転換をした。
 走る、走る、走る。
 背後からは、蜘蛛が八本の脚でザカザカと地面を抉りながら走って来ていた。一般的に見る蜘蛛の動きではない。確かに体は何十倍も大きいが、それにしてもいちいち動きがダイナミックである。姿形は確かに蜘蛛であるが、異界の主が生み出した蜘蛛に似た化け物に過ぎない――ということであろう。
 アマトキを抱えた天鈿女は、寸での所で建物とフェンスの間に滑り込む事が出来た。直後、ドォン! という激しい音を立てて、蜘蛛がその隙間に突っ込んだ。その衝撃で体が浮いてしまった天鈿女は、アマトキと共に盛大に地面を転がった。
「あだっ!」
 アマトキが頭を抱えながら、地面に落下して悲鳴を上げた。
「なぁーーー!!」
 天鈿女は、特撮で爆風に吹き飛ばされるヒーローの如く空中を滑空した後、無意識に身を捻った事で、左肩から地面に激突し、勢いそのまましばらく横に転がっていった。
「いたたたた……もうやだ、家に帰りたい……」
 涙目の天鈿女。
「うわっ!」
 アマトキは頭を抱えていたが、蜘蛛の足が真上から迫ってきている事に気付いて、慌てて天鈿女の近くまで逃げて来た。
「あ、危ない。串刺しになる所だった……」
 蜘蛛は、同じ所を何度も足でガシガシと突いている。さすがに体が大きいため、中に入ってくることはできないようであった。その様を見て、二人は少しばかり気が抜けた。
「と、とりあえずは……助かった?」
「これからどうしよう。一応、建物に沿って奥には行けそうだけど」
 アマトキが言うように、奥は行き止まりではなく、建物を回り込むように道が続いていた。
「私はもう帰りたい。まさか、考えなしに突撃していたなんて」
「だから、何とかしてくれると思ったんだよ!」
「勝手に期待しないでよ! もう、馬鹿だと思っていたけど、あなたの馬鹿さ加減は底が抜けて冥府魔道を彷徨っているレベルよ!」
「そこまで言わなくてもいいじゃん!」
「馬鹿馬鹿ばぁ〜か!」
「うぅ……だって、だってぇ……」
 アマトキは頭を抱えて、目に涙を溜めた。
「とりあえず、もう一回異界への扉を開いて、出直すのが得策ね」
「慶介は、どうなるんだよぉ〜」
「どうしようもないでしょう。あんなデカイ蜘蛛とどう戦うのよ。踊り子と遊び人でボスを倒せとか、そんな縛りプレイはゴメンね」
「でも! でも! こう……なんとかならないのか? 助っ人を呼ぶとか」
 アマトキは、必死に食い下がった。
「助っ人と言うけど、他人の異界にそこまで干渉……あっ」
 そこで天鈿女は、はたりと気付いた。
「助っ人、呼べるのか?!」
 アマトキが、期待に満ちた視線を送った。
「一柱だけならなんとかなる……そう、そうね……ここまでされて、手放しで帰るのもさすがにアレよね……とりあえず、あの蜘蛛はぶち殺す!」
 地面にへたり込んでいた天鈿女は、勢い良く立ち上がった。
「おぉ! やれ! やっちゃえ!」
 それをアマトキが、囃し立てた。
「我、天鈿女と強き縁で繋がりし、農耕の神よ! 我は請う! 魔を振り払う力を! 来なさい! 猿田彦(さるたひこ)!!」
 天鈿女が、柏手を打った。その波紋が空間に広がって行ったかと思うと、それに呼応して上空から何かが落ちて来た。
「俺の嫁を泣かした奴は、テメェかぁーーー!!」
 巨大な猿の姿をしたそれは、落下と共に己の身の丈を超える棍棒を蜘蛛へと振り下ろした。しかし蜘蛛は、素早い動きで後退し、棍棒は無為に大地に突き刺さるに留まった。
「なんか出た!」
 アマトキが、舞い上がる砂煙を避けるため顔を両腕で隠しつつ、驚嘆の声を上げる。
 天鈿女の召喚に応じたのは、猿田彦命。農耕の神として、有名である。その身の丈は、アマトキの傍にある一階建ての建物より大きいため、五メートルほどはありそうだ。姿はずんぐりとしており、人よりも名前の通り、猿に近い姿をしていた。
「無事か? 我が妻よ」
 響く声は、渋くて低い。
「はいはい、大丈夫よ。こっちはいいからキリキリ倒して。あと、どっか遠くでやってね。ウザいし、邪魔だし、気持ち悪いから」
「承知!」
 天鈿女の酷い扱いを気にした様子はない。そのまま蜘蛛へと突っ込んだ後、蜘蛛を抱えて運動場を駆け抜けて行った。
「扱いが酷いな」
「いいのよ、アレで。虐げられて喜ぶ変態さんだから」
「まぁ、何にせよ、これでようやく慶介を探せ……なぁ!」
 突然アマトキの体が逆さまになり、宙を舞った。
「ちょっと、なんなの?!」
 続いて天鈿女も逆さまになり、宙を舞う。二人の足首には、白い糸が絡まっていた。瞬く間にフェンスと建物の間に白い糸が張られて行き、見事な巨大な蜘蛛の巣を形成する。
 二人とも逆さまで宙吊り状態。ジャージ姿のアマトキはともかく、巫女装束姿の天鈿女は、布が翻ってしまわないよう抑えるので必死であった。
「ちょっと、宙吊りは止めてよ! 見える! 見えちゃうでしょう!!」
「頭に血が上るぅ〜!」
 バタバタと慌てふためく二人の前に、一人の少女が姿を現した。
 年の頃は、十代半ば程であろうか。漆黒の長い髪をたなびかせ、黒いセーラー服を身に纏っている。全身黒尽くめであるが、その両の眼だけが紅に燃えていた。
「あっ、出たわね! 下ろしなさいよ!」
「お前がタタリ神か! 下ろせぇ!」
 バタバタと暴れる二人を、少女は静かに見つめていた。
「とても残念です」
 表情一つ変えることなく、少女はぽつりと呟いた。
「是非はありません。滅んでください」
 何もない空間から鞘に納められた日本刀を取り出した少女は、淡々とそう言い放った。


 私は、アマトキ。
 とても寂しそうな瞳をしている……。


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