堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第六話 『天鈿女登場』

<<   作成日時 : 2014/05/07 18:06   >>

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 ベッドに胡坐(あぐら)を掻いて座っているアマトキ。
 それを見下ろす女性が一人いる。
 黒い髪に、鮮やかな緑色の瞳。スーツ姿の彼女であるが、彼女がOLに見えるかというと、全く見えない。どちらかと言えば、詐欺まがいの押し売りをしていそうな、そんな胡散臭さが拭いきれていなかった。
「まさか、寝込みを襲いに来るとは」
 アマトキは、女性をねめつける。しかし女性は、全く気にした様子がない。
「ドッキリ大成功です。驚きの声が、『にゃ〜』とか、さすがに媚びすぎじゃない?」
「う、うるさいな! 咄嗟(とっさ)に出たんだよ」
 アマトキは、頬を染めて言い返す。
「それよりも何の用だ? 裸踊りの女神さん」
 すると女性は余裕のある態度を一変させ、ガシッとアマトキの頭を右手で掴んで、凄んだ。
「天鈿女(あまのうずめ)です。滅ぼしますよ、クソガキ」
 アマトキは、そんな女性――天鈿女の手を払いのけた。天鈿女は、あっさりと力を抜き、アマトキの頭から手を放した。
「以前会った時とは、随分と違うな。それが、本性か」
「以前? あぁ、そんな昔の事は忘れました」
「そっか。所詮は虚勢なんだ」
「いちいちムカツくわね。私は、あなたとこんな話をしに来たわけじゃないの」
 天鈿女はポケットから一枚のA4サイズの白い紙を取り出し、アマトキの前に広げる。
「都合が悪くなると、話を逸らすか。で……あぁ、この話なら昔断っただろう」
 紙には、『八百万システム参入同意書』と書いてあり、その下に細かい文字でびっしりと文字が刻まれていた。
「だからですよ。今度こそ、加入してください」
 アマトキは、胡散臭そうに紙と天鈿女を交互に見ている。
「いや、兄様がダメと言っていたから、入らないぞ」
「それは、千年以上前の話でしょ?」
「どれだけ時が経とうが、関係ない。兄様がダメだと言うなら、それはダメな奴だ」
 天鈿女は、嘆息を吐く。
「絶大な信頼ですね。その兄様は、あなたを利用してきた人間でしょ?」
 途端、アマトキの表情が一変した。それは、怒りである。
「兄様を悪く言うな」
「ごめんなさい。私が勘違いしていただけのようね。今の言葉は取り消すわ。だから、そんなに怒らないで」
 アマトキがそれほど怒るとは思っていなかったのだろう。天鈿女は、慌てて取り繕う。
「正直、別にそんなに悪い内容でもないのよ? これがあれば、たった一年程度しか現世(うつしよ)に居られないあなたでも、この国と人が存在する限り、現世に留まり続ける事が出来る。細かい事を抜きにして、これは大変いい話だと思うんだけど」
「あんたに話しても意味はないと思うけど、私にとっては刻限が限られていた方が、都合がいいんだ。命とは、尊いものである。それを忘れないためにも」
 天鈿女は、アマトキの言葉の意味がよく分からず目を瞬かせる。
「命の尊さ? 確かに、良く分かりませんね」
「分かってもらうつもりはないよ。それよりも、なんか変な細工をしているだろう?」
 アマトキは、部屋の出入り口へと視線を移す。
「私がしているわけではありませんよ。ここに住むタタリ神が、あなたを拒絶しているんですよ」
「な、なんだとぉ?!」
 次にアマトキは、勢い良く天井を見上げた。
「おい! お前にとって、こいつらは敵だろう?! なんで、敵の味方をする?!」
 天井に向かって吠えてみるが、天井は当然ながら答えを返さない。
 アマトキの言葉は、その先に居るであろう、タタリ神に向けられたものであったが、そのタタリ神からの返答もなかった。
「敵の敵は、味方なんでしょう」
 天鈿女は、然して興味がなさそうに言った。
「それよりも……」
 天鈿女が話を戻そうとしたその時である。急にガラガラと滑車が音を立てて、部屋の引き戸が開いた。
「えっ?」
 天鈿女の困惑の声。
「慶介!」
 アマトキの歓声。
 部屋の引き戸を開けたのは、慶介であった。
「あなたどうやって……?」
「慶介! 変な奴が来た!」
 天鈿女が問うが、それにアマトキの言葉が重なる。
 天鈿女を指差す、アマトキ。
 慶介は、アマトキを見て、続いて天鈿女に視線を移す。
「どちらさまですか?」
「むぅ」
 唸る天鈿女。現在の状態は、天鈿女にとってはかなり悪いものであった。
「アマトキ、この人、知り合い?」
「知らない人。変質者だよ」
「誰が変質者ですか」
 どうしたものかと考えていた天鈿女だが、ちゃんとツッコミを入れる。それから、腰に右手をあてて、慶介を見た。
 こうなってしまっては仕方がない。天鈿女は、とある決意をした。
「あなた、お名前は?」
「えっ? 藤木慶介……」
「馬鹿っ! あぁー……答えちゃった……」
 アマトキの言葉が重なるが、時はすでに遅し。慶介は、自分の名前をフルネームで答えてしまった。
 名前とは、存在を縛る枷なのだ。その事をアマトキは良く知っていた。ただ、一般人であり、呪術に詳しくない慶介には、天鈿女が何故名前を問うたのか、その真意を理解できなかった。
「さぁ、藤木慶介! 私の言葉に従いなさい!」
 天鈿女が高らかにそう宣言した瞬間、慶介の持っていた十円玉と五円玉が甲高い音を立てた。
 何も起こらない。
 慶介は、持っていた十円玉と五円玉に視線を落とす。
 音を立てたものの、特別な細工をした覚えはない。今は鳴りを潜めているが、不思議と温もりを感じた。
 天鈿女は、名前で存在を縛り上げ、慶介の行動を自由に操作するつもりであった。しかし、土偶から貰った十円玉と五円玉が、天鈿女の言葉を弾いた。弾いた瞬間、その力の在りかが、空間に情報として拡散した。それを察知した天鈿女は、すぐにその正体に感づいた。
「この気配っ! あなた、土偶に会わなかった?!」
「土偶ならさっきそこに。もう、壊れてしまったけど」
「おのれ、どこまでも邪魔な土偶ね!」
 天鈿女は、引き戸とは反対側の窓へと走り寄り、窓を開けようとした。
 次の瞬間、ガリッと嫌な音。
 天鈿女は、右手を振り上げて奇声を上げた。
「なぁー! 指! 爪ーー!!」
 窓が開かなかったため、指を滑らせ、窓枠の引っかかりで爪をぶつけたようである。
 現在、結界展開中のため、特定の条件が揃わないと、全ての窓、扉は開かない。その事を、天鈿女はすっかり失念してしまう程、慌てていた。
「もうやだぁー、なにこれ、ばかぁー……」
 目に涙を溜めて、右手を抑えてうずくまる。そうしているかと思うと、今度は急に立ち上がった。
「窓を開けて頂戴!」
 天井に向かって宣言。それは、窓を開けるための許可を取りつける意味合いがあった。
 再び窓枠に手を当て、慎重に窓を開ける。今度は、何事もなくスムーズに窓が開いた。
 窓が開くと、天鈿女は身を乗り出して、右へ左へとせわしなく顔を動かす。しかし、彼女の探しているものを見つける事は出来なかった。
「ぬぅ! いない! 土偶めぇ! この指の恨み、必ず晴らす……!」
 とんだとばっちりである。
 バタンッ! と勢い良く窓を閉めた天鈿女は、振り返るとすぐに踏ん反り返った。
 慶介とアマトキは、呆れた顔でそんな彼女を見つめていた。
「神勅(しんちょく)が届かないのであれば、仕方がありません。藤木慶介、良く聞きなさい。私の名は、天鈿女! 日本最古の芸を司る女神よ! 崇め奉りなさい!!」
 高らかに宣言する。
 それを、冷ややかに見つめる慶介。
「またこの手合いか。最近、そういうのが流行りなんですか?」
「えっと……流行り?」
 慶介の反応が鈍い事に、困惑する天鈿女。すると、アマトキから助け舟が出た。
「慶介は、私の事も神だと信じていないから。そういう設定だと思われているし」
「この不信者め! 私を中二病呼ばわりするなんて!」
 天鈿女は、今にも地団駄を踏みそうなほど怒り、悔しがっていたが、慶介にはその気持ちがまるで伝わっていないようであった。
 どことなく生暖かい視線。それは、『こういう人とは関わりたくないな』という思いがしっかりと込められていた。
「で、そのアマノウズメさん? は、一体何の御用なんですか?」
 慶介の独特な言い回し。
 天鈿女は、少しばかり逡巡した。そして、結果的には色々と諦めてしまった。
「私は、アマトキに八百万システムに参入するように促しに来ただけです」
「八百万システム?」
「宗教だよ、怪しい宗教」
「警察を呼んでもいい系?」
 慶介は、アマトキに尋ねた。
「ここは呼ぶべきだろう」
 ウンウンと頷くアマトキ。
「あなたたち……! 別に警察を呼んでも構いませんけど、私の力の前では、彼らは無力よ。さぁ、四の五の言わずに、八百万システムに入りなさい!」
「だが断る」
 きっぱりといつにも増して凛々しい顔でアマトキは即答した。
「とりあえず、アマトキもこう言っているので、帰ってもらえませんか? 朝から迷惑なんで」
「藤木慶介君、君からもアマトキを説得してくれない? 彼女が現世にいられるのは、一年足らず。だけど、八百万に入れば、彼女は末永く現世に居る事が出来るの。何も、彼女に不利益なんて発生しない。悪い話じゃないのよ」
「一年足らず……?」
 アマトキの方を見る。
「そういう設定だ」
 アマトキは、ぼそりとそう言った。その表情は、どことなくバツの悪いものであった。
 アマトキにとって、それは慶介に伏せておきたかったものだったのであろう。
「設定でもなんでもいいから、加入してくれないかしら? 私も助かるし、あなたも助かるでしょう?」
「やだ」
 その後、しばらく同じようなやり取りを、二人は繰り返した。
 口を挟める空気ではなかった為、慶介も傍観者に徹するしかなかった。
 アマトキが、何度断っただろうか。
 最後には、二人ともひたすら睨みあうだけとなってしまう。しかしそんな睨みあいも、長くは続かなかった。
 嘆息を吐き視線を逸らしたのは、天鈿女の方だった。
「あぁ、もう」
 天鈿女はそう言って、自分の腕時計に視線を落とす。
「このままじゃ遅刻しちゃう。とりあえず、今日の所は帰るわ。学校が終わったらまた来ますからね」
 『ね』の部分を強調した後、天鈿女はあっさりと部屋から出ていった。
 止める必要もないため、傍を通って行く天鈿女を慶介はただ見送った。
「学校って……神なのに、学校に行っているのか」
 アマトキは、しみじみとそう言った。
「一体何だったんだ?」
 慶介は、釈然とせずそうぼやくしかなかった。



 私は、アマトキ。
 とりあえず、一段落?



END

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