堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 序章+第一話『アマトキ降臨』

<<   作成日時 : 2013/08/26 15:19   >>

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私の地元を舞台にした小説です。

あらすじ
塔ノ尾公園を散歩中に、落ちて来たアマトキを抱き止めた慶介。
アマトキと慶介。神と人が紡ぐ優しい物語。




   序章

 宇美町という町を知っているだろうか? きっと、『どこよ?』と言われる事だろう。しかし、こう言えば大抵分かってくれる。『大宰府の隣だよ』と。
 元は、炭鉱で栄えた町。しかし、時代の流れと共に炭鉱は閉山となり、ボタ山は消え、商店街は寂れ、映画館はなくなった。その後、福岡市のベットタウンとして少しずつ元気を取り戻し始めたが、所詮は『中途半端な田舎』と言われる程度の町である。
 そんな宇美町に、古代のロマンが眠っている事を知っている人が、どれほどいるだろうか? 宇美町には、二万年前から人が住んでおり、独自の文化圏を持っていたと推測される。そのほとんどは、宅地増設などで破壊され、原形を留めていないが、町を歩けば実はあちらこちらに、昔の人たちが残したものが目に付いているのだ。
 宇美八幡宮。光正寺古墳。四王寺坂。大野城跡地――などなど。この物語は、障子岳にひっそりと存在する、塔ノ尾公園という古墳が舞台となる。奈良時代から存在する、お墓である。
 そこで藤木慶介は、祖霊であるアマトキと出会う。
 神と人。あちらとこちら。行ったり来たりしながら、紡がれていく物語。
 それは、優しい思い出の物語である。


   第一話『アマトキ降臨』

 2013年 6月中旬
 慶介は、いつもの散歩の途中である。
 彼の散歩コースには、塔ノ尾公園という遺跡が存在する。北側は宇美川が走り、他の周囲全て田畑に囲まれている。そんな平たんな場所に、突然ぽっこりと標高100メートルの小高い丘が鎮座している。それが、塔ノ尾公園である。元々は、塔ノ尾遺跡と呼ばれており、さらに以前はこの遺跡こそを、この地区の名前である『障子岳』と呼んでいた。すでに遺跡の発掘は終わり、公園として綺麗に整地されてしまったので、遺跡としての面影はまるで残っていない。本来の墓所としての役目も、江戸時代中期の頃から、墓所の場所が変わっていき、今や完全に失われている。
 そんな塔ノ尾公園を登って、三郡連山を見て、福岡市の遠景を見て、ベンチで少し休んでから、階段を降りて行く。
 年を取れば、肉体は老いていく。少しでも体を動かさなければ、油が切れて動かなくなったゼンマイのように、すぐに肩や腰がギコギコと音を奏でてしまう。
 とりあえずお手軽なのは、散歩だった。何をしても中々長続きしないのは、良くある事である。散歩も何度か挑戦したが、結局は三日坊主という失敗を何度か繰り返した。そんな中、最近見つけたお気に入りが、この塔ノ尾公園である。
 景色が良く、人がさっぱりいなくて静か。家からの距離も丁度良い。この塔ノ尾公園を見つけてからは、散歩も続くようになった。
 階段を降りながら、ぼんやりと考え事。
 この塔ノ尾公園には、『落石注意』という看板が立っている。看板の通りなら石が落ちてくるのだろうが、そんな気配は微塵もない。
「石じゃなくて、女の子が落ちてきたら面白いのにな」
 そんな事を思いつつ、階段の踊り場で塔ノ尾公園の崖を見上げる。
 なんだろうか? 何かが落ちて来ていた。崖からではなく、真上から。それがなんなのか認識する間もなく、慶介は落ちて来たものを両腕で抱き止めていた。
 トサリ――と重力を無視するかのように。落ちて来た羽が地面に落ちるようにして、その何かは慶介の両腕に収まった。
 女の子だった。愛らしい顔立ちをしている。年の頃は、十代前半ぐらいか。両腕にすっぽりと収まる小柄さ。そして特徴的なのは、驚く程長い黒い髪。髪の毛で作った鳥の巣に横たわるような感じになっている。
 人と思えないほどの軽さに、驚く。
「どうして……」
 どこから湧いて来たのか? そんな疑問を感じたが、うまく言葉にならなかった。
 女の子が『ん』と呻き、体を揺する。目を覚ました女の子。目は、澄み切った水のような色をしていた。大きくて愛らしいその瞳をくりくりと動かし、慶介を見つめている。
「大丈夫?」
 そう声をかけると、女の子も口を動かした。しかし、聞き取れない。
「大丈夫?」
 もう一度声をかけてみる。女の子は、再び口を動かしたが、やはり聞き取れない。そこで気付く。女の子が、日本語を話していない事に。
 外国人なのか。どうしたものか。そう困っていると、女の子が両手を伸ばしてきた。慶介の頬に触れ、まっすぐに慶介を見つめて来た。吸い込まれるような青い瞳。体が動かなくなる。
 しばしの時間を経て、ぱっと少女が手を離した。それに合わせて、慶介の体も動くようになる。
 なんだったのか? 首を傾げる。
 女の子は、顎に右手をあてて、何やら考え込んでいる。
「そうか」
 それは、女の子の言葉だった。今度は、はっきりと聞き取れた。なぜ、突然聞き取れるようになったのか。わけが分からない。
 とりあえず女の子をお姫様抱っこしたままだと、誰かに見られた時に言い訳が思いつかないため、地面に降ろした。女の子は、慶介の服を掴みながら、地面に降り立つ。地面に降ろしてみると、彼女の小柄さが際立った。
「どこも怪我をしていない?」
 もう一度声をかけてみる。すると女の子は、こくりと首肯した。通じたようである。
「問題ない」
 ちゃんとした日本語で答えが返ってきた。
「そう。なら、気を付けて帰るんだよ」
 あまり知らない女の子と関わるのは良くない。世の中、どんなことで訴えられるのか分からないのだ。
「待て。藤木慶介」
 呼び止められた。しかも、何故か本名を呼ばれて。自己紹介した記憶はないし、慶介はこの女の子の事をまるで知らない。
 良く分からないが、とりあえず向き直った。
「私の名は、アマトキ。絶対にして唯一の神である!」
 女の子は、『アマトキ』と名乗り、小さな胸を張っている。アマトキ――ペンネームか何かだろうか。リアルな中二病なのか。
 そうなると、ネット上で知り合った相手なのか? しかし、ネット上で本名を明かす事はないし、アマトキなんていう名前を見たこともない。
「君に呼ばれて、ここに顕現した。さぁ、私を奉りなさい」
 高飛車な態度である。しかし、小柄なせいでただ可愛いだけである。
「良く分からないけど、宗教の勧誘ならお断りなんで。そう、お父さんやお母さんに言っておいてくれるかな」
 神なんて言っているから、宗教の勧誘かもしれない。実は、そこら辺に両親が隠れているのかもしれない。こんな可愛い女の子に、『この書類にサインしてね』と可愛くおねだりされたら、あっさりとサインしちゃうかもしれない。実に恐ろしい罠だ。
「だから、帰ろうとするな、藤木慶介」
「大体、なんで俺の名前を知っているの?」
「そりゃ、私は絶対にして唯一の神だからな」
 答えになっていない。可愛いけど、困ったちゃんである。
「そういう事だから、これから帰るなら、私も連れて行け」
「……家まで送って行け、ということ?」
「私に家なんかない。あと、両親はずっと昔に死んでいる」
「そっか。ゴメンな、心ない事を言って」
 両親が亡くなっているのは、気の毒だ。先程の言葉は失言であった、と反省する。とすると、この子は孤児なのか? 預けられた先が嫌で、家出でもしてきた、という事だろうか?
「だから、私はお前と一緒に住むのだ」
「どうしてそうなる?」
「私を呼んだのが、お前だからだ」
「いや、呼んでないし」
「呼ばれたのだ、お前に」
 話が平行線である。
 ここら辺は人の通りが少ない。平日の昼間だから、なおさらだ。しかし、人の目というのはどこにあるか分からないものである。今の社会、女の子に挨拶をしただけで、不審者情報に乗ってしまうのだ。
「とりあえず俺は帰るから。付いてきたかったら付いてくればいいよ」
 今更散歩を再開する気にもなれない。踵を返して、塔ノ尾公園を後にすることにした。

「もう歩けない!」
 アマトキの声が後方から響いてきた。まだ、塔ノ尾公園の円周である。歩いて五分も経過していない。
 無視して行くのはさすがに可愛そうだと思い、慶介は後ろを振り返った。アマトキは、両手を一杯に上に伸ばして、ぴょんぴょんと跳ねている。
「お姫様抱っこして!」
「いや、無理だから」
 アマトキは確かに軽い。抱えて家まで連れて行くことは可能であろう。しかし、女の子をお姫様抱っこしたまま、家に帰るなんて、出来るはずがない。
「付いてこられないなら、ここにいるといいよ」
 少し可愛そうであるが、世間体の事も考えると、あまり一緒には居たくない。
「むむむっ、そういう事を言うか!」
 アマトキは、ご立腹である。
「なら、仕方がない」
 諦めたのか? ほっとしていると、アマトキが何故かモジモジと体を小さくし始めた。
「お兄ちゃん、おぶって」
 上目づかいでそんな事を言われて、耐えられる男がいるだろうか。そんなのはきっと男ではない。
「はぁ、もう分かったよ。背負ってやるから、背中に乗れよ」
 慶介は、アマトキに背を向けて屈む。
「言っておくけど、あてられるほどの胸なんてないからな」
「あっ、はいはい。じゃ、そういうことで」
「待って! 今のは冗談だから! 置いて行っちゃヤダ!」
 アマトキが歩き出そうとした慶介の足にまとわりつく。仕方なく、家まで背負っていくこととなった。誰にも見られないように祈りながら。

 通りかかった初老の女性に、『こんにちは。おほほ……』と笑われてしまった。顔から火が出るほど恥ずかしかったが、アマトキは全くお構いなしに初老の女性に手を振っていた。
 玄関でアマトキを降ろす。大きなため息が出る。
「慶介よ、ご苦労だった」
 アマトキは、廊下に座って足をプラプラさせている。白い足。靴を履いていない事に、慶介は今頃気付いた。
「あれ? 君、素足だったの?」
「ん? そうだが。靴なんか持ってない。何せ私は、外を出歩くなんてことは、かつてしていなかったからな。それなのに、いきなり歩いて付いて来いとか、慶介は鬼よのぉ」
 一体どういう育ちをしてきたのか。
「はっ! 俺、なんで普通に玄関に通しているんだよ……アマトキだっけ? 家まで送るからさ、行こうか?」
「お前はしつこいなぁ。今日からここが私の家になるのだ」
 両腕をいっぱいに広げて主張している。主張が変わっていない。このままでは、再び平行線である。慶介が折れるしかなかった。
「とりあえず、お茶でも飲んでいく?」
「うん。抱っこして」
 慶介に反論するだけの気力は最早残っていなかった。

 アマトキを抱えて、居間へ。座椅子の上に降ろすと、すっぽりと収まった。
「この家、ジュースとかないから。お茶になるけどいい?」
「構わぬ」
 テーブルを挟んで、アマトキと向かい合う。アマトキは、冷えたお茶をちびちびと飲みながら、部屋を見渡している。その様は、小動物のようである。
 どのように話かけるべきか。聞きたいことはたくさんある。しかし、逆にたくさんあり過ぎて、どう聞いていいものかが分からない。
 困ったなぁ――とただただ座っていると、アマトキが顔を向けた。
「慶介、シャワーを使っていいか?」
 目を瞬かせる。
「どうぞ」
 そう言うが、アマトキは動かない。
「立たせて」
「……立つのぐらい自分で立ちなよ」
「髪が長すぎて、動けないんだよ」
 それで合点が行った。彼女の髪の長さは、床にまで余裕で届いている。あれでは、まともに動く事が出来ない。今も、慶介がそのまま降ろしたため、髪の毛を下に敷いてしまっている。立とうとすれば、頭が後ろに引っ張られる。動けないのだ。
「いくらなんでも、髪を切ったほうがいいんじゃないのか?」
「髪は、霊力の源だから、迂闊に切る事なんて出来なかったんだ。まぁ、今となってはこれほど長い髪は、必要ないのかもしれないけど」
 何やら、髪の長さにも色々と設定があるようである。なかなか、見事な中二病である。
 風呂場に案内して、バスタオルを渡す。シャワーまで手伝え、と言われたらどうしようかと思ったが、そこまで常識知らずではなかったようである。
 慶介は居間に戻って、テレビをつけた。
 十分ほど経過して。風呂の引き戸が動く音がした。この家は、築二十年を数える。そのため、引き戸も動かすとゴトゴトと煩い。
 居間の開き戸をガチャリと開けて、居間に入って来たアマトキは、服を着ていなかった。全裸である。驚く慶介。しかしアマトキは、なんでもないといった様子で髪をバスタオルで拭いている。
「慶介、服はないのか?」
「お、お前、そのまま上がって来るなよ!」
「ん?」
 顔を真っ赤にして顔を背ける。
「もしかして、私の裸にときめいているのか? ムラムラしているのか? 別に私は、見られてもなんともないが。触りたいなら触ってもいいぞ」
「マジで?!」
「あっ、その反応は気持ち悪い。やっぱりダメ。慶介のロリコン野郎」
 思わず男の性(さが)で反応してしまった。
 そそくさとアマトキの方を見ないようにしながら、慶介は隣の和室へ移動。昔使っていたジャージ生地のズボンと、黒のポロシャツを和室から居間へと投げ入れた。
「女の子用の服なんてないんだ。とりあえず、それを着てくれ」
「着せてくれないのか?」
「無理だ!」
 とてもではないが、理性が保っていられない。

 服を着たアマトキは、再び座椅子に収まっていた。当然ながら服がブカブカである。ウエストを調整するための紐を必死に引っ張っている。ズボンはそれでなんとかなるようであるが、上着がヤバイ。どうやら下着も付けていないようで。座って、もぞもぞと動くだけでちらりちらりと肌が見える。
 これは、酷い。
「ダメだ! ちょっと服を買ってくるから、そのまま待っていろ!」
「ちょっと! 私も連れて行け!」
 あんなブカブカの服を着ているアマトキを連れて行けるはずがない。慶介はアマトキの言葉を無視して、家を出ていった。

 戻って来た慶介は、子供用の赤色のジャージを上下で揃えて買って来た。一旦、押鉄ストアまで行ったが、女性用の服や下着を買う事が出来ないという現実にぶち当たった。結局、何も買わずに帰り、途中でウライアルに寄って、買うのに抵抗が少ないジャージを買ってきた、という流れである。
 サイズが分からなかった為、それらしいものを選んだ。若干大きかったようであるが、露出は随分と抑えられた。これで心が平衡に保てる。
「ニヘヘ」
 アマトキは、ご満悦である。ジャージで喜ばれても心が痛む。もっと可愛い服を買ってやらないと――そんな事を思ってしまっている自分に、はたりと気付く。
「いやいやいや! アマトキちゃん、もうそろそろ家に帰ろうか?」
 慶介は半ば、泣きそうである。
「だから、ここが私の家であると言っておろうが」
 アマトキの主張は全然変わらない。
「なんで君の家になってんだよ。本当、もう勘弁してくれ……」
「何をそんなに悲観しているのか分からないのだが。お腹痛いのか?」
「主に心と頭が痛いよ。君は一体何がしたいんだ?」
「うむ。そうだな、とりあえずこの世界を満喫したいな」
「この世界を満喫?」
「そうだ。私は、奈良時代からずっと眠っていた。ここ最近、目が覚めたのだが、見事に信仰を失っていて、こっちの世界に戻ろうにも戻れなくなっていて、そんな時にお前が私を望んだ。だから私は、こっちの世界に降りてくることが出来たんだ」
「俺が望んだ……そこがもう分からないんだが」
「女の子が落ちてこないかな、と思っていただろう?」
「えっ?」
「だから私が落ちて来た」
「待て待て待て! 確かに、アニメみたいに落ちてきたら面白いなぁとは思ったけど……いやいや、それは君が神だと決まっていたら通じる話だろう? 神様なんて、ゴメンけど、俺は信じていない。君は、どう見ても人間だ」
「それならそれでいい。私がお前に、藤木慶介に願う事は一つだけだ。私と一緒に生活をしてくれ」
「……どうして?」
「私がそうしたいからだ」
 どうしたものかと困る慶介に、アマトキは静かに諭すように言う。
「難しい事を考える事はない。誰も、慶介を咎めたりはしない。私と共に在って欲しい。それとも、本当に私の事が嫌か?」
「あぁ、もう! 分かった! 好きにしてくれ! その代わり、俺に襲われても文句を言うなよ!」
「おぉ、私襲われちゃうの? これでも神だからな。私は強いぞ」
 カラカラと笑うアマトキ。途端に慶介は、なにかもが馬鹿らしくなってしまった。




 私はアマトキ。
 日常生活、始めました。




 第一話 END

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