堕天王の逝く道

アクセスカウンタ

zoom RSS 由紀子・夏樹編 第五話 沙夜の能力を封印しましょう 前編

<<   作成日時 : 2008/06/15 20:37   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

今日は、しゅごキャラ! を見て、いくつかアニメを見た後、二度寝したら、12時を回ってて、私ビックリでしたよ。
よっぽど疲れていたのか、犯罪グループの一員になって、強盗したり、ヘマしたリーダーをタコ殴りにしたりする夢を見て、『俺様、超末期!』とか思いました。
・・・あんな私、嫌過ぎる。

学校生活の夢も見ましたが、前の席に座る女の子が超可愛かったです。
あと、担任の先生が、10年前に亡くなった先生で、かなり懐かしかったです。

日常ネタのついでに、一つ言わせてもらいます。
人殺しは、所詮人殺し。どんな理由を付けても、それは絶対に変わらない。
秋葉原の件を、『革命』とかのたまう人もいるようなので、これを忘れないで欲しいです。

『死とは与えるものではなく、迎えるものでなければならい』
『足洗邸の住人たち』の中の台詞。結構、好きです、この言葉。


では、結局今日中に何とかなった第五話を。
題名は、ストレートに行きました。わっかりやす〜い。
お気に入りキャラの水及様が、やっと出せましたが、由紀子・夏樹編では、ほぼ出番はないという。
今回、狼命と沙夜が出会ったシーンでかなり悩んでいたのが、停滞の理由でした。

狼命と沙夜。沙夜の前世であるサトリさんは、狼命ととっても仲が良かったんです。
だから、沙夜と出会わせたときに、サトリさんを表に出して、『久し振り!』とかやるべきなのか、狼命の方から少し動かすべきなのか、とか色々と悩みました。
でも私、あんまり前世とかの記憶が出てきてどうこう、という話は好きではないので。



 第五話 『沙夜の能力を封印しましょう 前編』 

 鳥のさえずりが聞こえて、我に返る。なんとはなしに、襖を開けなければならないと思い、襖を開けるとそこに一人の少女がいた。少女は、言葉を連ねている。しかし、聞こえてこない。何も、何も――。
「姉様・・・?」
 その言葉に反応して、ぼやけていた少女の顔が僅かに見えた。気の強い瞳を有す、綺麗な子である。少女は、優しく微笑んだ。
「私が守るから。絶対、いつか、普通に暮らせるようにするから! だから、もう少し待っていて。私が守る。父の好きなようには絶対させない・・・!」

 カーテンから漏れる光で、由紀子は目を覚ました。頬を伝っていた涙を拭い、彼女らしくない真剣な表情を浮かべる。
「夢・・・また泣いてた、私。姉さんなんていないんだけどね。はぁ・・・また私自身が薄れていく」
 夢を見るたびに感じる、食い違い。自分が小泉由紀子(ゆきね)であるということが確信を持てなくなる、揺らぎ。そして今日、もう一つ感じたことがあった。
「忘れてはいけない約束を・・・忘れちゃった気がする」
 何か大切なものを失ってしまったという、喪失感。あの場所を訪れてからずっと、由紀子は今までに感じたこともない不安感を覚えていた。
 気を取り直して、由紀子は居間へと降りた。母親がワイドショーを真剣な面持ちで見ている。
「おはよう、母さん」
「・・・おはよう〜。ねぇねぇ、由紀子。結婚するんだって、この人。わぁ、ありえないー」
「あぁ、そう」
 由紀子にとって、芸能ニュースなどどうでもいいことこの上なかった。
 インスタントコーヒーを淹れ、テーブルの上に転がっている菓子パンを選ぶ。カレーパンか、チョココロネか。
「コロネよね、やっぱ」
 コロネの包装を破り、食べようとしたその時――。
「由紀子」
 母親が声をかけてきた。わざわざ、彼女の前に座ってくる。
「なに?」
「あのね、由紀子、最近私に隠している事ない?」
「どうして?」
 母親が何を言いたいのか、いまいち理解できない。
 疑問を疑問で返してやると、母親はなにやら悩みだした。とても言いづらそうである。一体、何をそんなに困っているのだろうか。
「あのね、章吾がね・・・由紀子が、年上の男の人と付き合っているとか言うだもん!」
 咀嚼していたコロネが、勢い良くノドにダイブし、むせる由紀子。
「どうなの?! 由紀子!」
「んなことあるわけないないじゃない! 朝から変なことを言わないでよね!」
「でもね、章吾がね」
「ない。幻覚でも見たのよ。兄さん、病気してそうな顔をしているし」
「・・・それはどうかな」
 母親が鬱陶しいので、食べかけのコロネとコーヒーを持って由紀子は二階へと非難した。内心は、冷や冷やしていた。
「兄さんに見られていたなんて、不覚だった・・・今度から気をつけよう」
 聡が恋人。それはそれで――慌てて頭を振って、変な考えを振り下ろす。机に向かって、町の図書館から借りてきた記憶についての本を開いた。
「ない。ないない。私は、単に話し相手をしているだけなんだし。ない、ないない。ないな〜い」
 再びコロネを口に含んだ時、どこからともなく軽快なメロディーが流れてきた。その音にびっくりして、再び咽る。涙目になりながら、由紀子は携帯電話を探し始めた。
「もう、誰よ。誤嚥で殺す気?」
 音源を頼りに本をどけて、埋もれていた鞄を回収、その中から携帯を取り出した。
 電話は、番号から察するに一般家庭の電話機からかけられているようだ。しかし、見たこともない電話番号である。少し迷った挙句、興味があったので出てみることにした。
「はい」
 警戒して、返事はそれだけ。すると、思わぬ返事が。
『あの・・・氷女ですが・・・』
「へ? あ、沙夜ちゃん?!」
 思わず姿勢を正してしまう由紀子。携帯の番号を教えていたことを、今更ながらに思い出した。
「はいはい、由紀子です。どうしたの?」
『あの、今日良かったら、歌宝山に用事が出来たので・・・』
「歌宝山に? それはまた辺鄙(へんぴ)な所に用事だね」
 歌宝山といえば、櫻町の北にそびえる高さ七百メートルちょっとの山である。こちらの山は、前回登った若草山と違って、登山者などまずいない。そもそも町の人は近づくことさえない、そんな山であった。
『あの、私の能力のことで・・・『水及(みなの)』、ていう人を探しに』
「水及?」
 その名前を聞いたとき、少し胸が痛んだ。名前は全く知らない。それなのに、この痛み。やはり自分が知らない何かがあるのではないか――そんな思いに駆られてしまう。
『はい、山神に仕える巫女・・・だそうです』
「あぁ、伝承で聞いたことがあるわ。大木公園の中央にでっかい桜の木を植えた人ね。でも・・・生きていたら千歳以上よ。八百(やお)比丘尼(びくに)もびっくりよ」
 櫻町の古い伝承。
 人の愚かな争いに呆れて、神様が眠りについてしまった。神様を失った町には、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)が跋扈(ばっこ)し、人を喰らい、田畑を荒らした。そんな時、一人の乙女が現れた。川を流れる美しい水さえ霞んで見えてしまうほどの、青い髪と瞳を有したその乙女は、美しい歌声で魑魅魍魎を鎮めた。そして、一本の木をこの町に残していった。それが、大木公園の守り木だと言われている。その伝承が一体いつの時代のものかはよく分かっていないらしいが、少なくとも千年以上は前の話ではないのか、そう言われている。常識的に考えて、生きているはずがない。
『後継者の方でもいいんです。会って、私の能力を制御する方法を教えてもらうんです』
「分かった。根拠がないわけでもないんでしょ? なら、付き合うわ。どうせ暇だしね。ついでに神華さんも呼んで、三人で行こう」
『ありがとうございます!』
 電話の向こう側で、沙夜がとても喜んでいる事が分かった。それが、由紀子に笑みを点らせた。

 ということで、沙夜、由紀子、神華の三名は、大木公園で合流後、一路北を目指していた。
「結局、沙夜さんの能力、霊媒? ですか。それは一体どういうものなんですか?」
「神華さんも聞いたことがない? 恐山の『イタコ』の話。彼女らこそ、『霊媒』の見本みたいなのかな。『口寄せ』とも言うみたいだけど」
「ようするに、死者の言葉を己の口を通じて形にする・・・そういう解釈でよろしいのですか?」
「だと、私は思っているけど、沙夜ちゃん的には、あたり?」
 沙夜は、少し困った顔で『はい』と答えた。
「どうしたの? 元気ないみたいだけど」
「地顔なんです。気にしないで下さい」
「なにそれ」
 由紀子は笑っていたが、沙夜が何か嘘を付いている事に薄々気付いていた。彼女の能力は、霊媒だけではないかもしれない。なんにせよ、彼女が隠している事をわざわざ聞く必要もないので、由紀子は何も聞かなかった。
「ところで沙夜ちゃん。その『水及』とかいう人の話は、誰から聞いた話なの?」
「おばあちゃんからです。おばあちゃんは、氷女家に伝わる伝承を知る最後の人。私みたいな青い瞳の人は、氷女家では二人目なんです」
「そうなんだ」
「はい。サトリという人で、同じ能力を持っていたそうです。そのサトリという人に、能力を制御する方法を教えたのが、『水及』という人らしいです」
「へぇー、でも、電話でも言った通り、生きていたら千歳近いはずよ」
「おばあちゃんみたいに、知識を受け継いでいる人がいれば・・・そう思って」
「『水及』の知識を受け継いでいる人・・・」
 椿の横顔が、脳裏を過ぎった。彼女が裏でやっている家業を、由紀子は知っていた。彼女なら、何か知っているかもしれない。
「とりあえず行ってみよう」
 知っているかもしれないが、教えてくれるとも限らない。現場に行って、手がなくなった時点で頼る方向にした。
 大木公園から、およそ三十分弱程度。『魔の巣窟』とも言われる櫻町ナンバー一の吹き溜まりである飛山団地の裏側に、由紀子たちはたどり着いた。飛山団地の裏は、まばらな住宅街と畑で構成されており、その先に歌宝山が鎮座していた。
「こりゃ・・・まるで難攻不落の居城ね」
 畦道(あぜみち)から歌宝山を見上げ、由紀子はぼそりと言った。ないのだ。道とか道とか道とかが。畑を過ぎると、ダイレクトに草むらに突入。その先は、もううっそうとした森の中だ。踏み込みようがなかった。
「一つ、案件があります?」
 神華がすっと手を上げた。
「案件?」
「はい。この畦道を東に、病院の方へと向かうと、途中に『沢村探偵事務所』という看板があるんです。なにか、ご存知かもしれませんよ」
「へぇー、そんなのがあったんだ。あんまりこっちの方には来ないから、知らなかったよ。でも、それ悪くないかも?」
 由紀子が、沙夜に話を降る。しかし、沙夜は話を聞いておらずじっと歌宝山を見つめていた。彼女が何かをじっと見ているその様は、若草山を登っていた時の事が、由紀子に連想させた。
「・・・沙夜ちゃん? またなにか見えているの?!」
 また景色が入れ替わるのではなかろうかと、周りをきょろきょろと見渡してみたが、今度は何も起こらなかった。
「あ、大丈夫です」
 我に返った沙夜は、苦笑を浮かべる。
「この山、結界が張ってあるなぁ〜・・・て思っていただけです」
「結界? 本当に?」
 由紀子は改めて歌宝山を見上げてみるが、やっぱり彼女の目には他の山に比べて緑濃い森にしか見えなかった。
「誰かがこの山を管理しているのは間違いないと・・・思います。管理している人に出会えれば・・・」
 沙夜は言いよどんでいる。さすがにそれ以上のことは、彼女も分からないのだろう。一旦、ここら辺で椿に電話をすべきか、そんな事を思っていると、沙夜が『あっ』と呟いた。
「どうしたの?」
 沙夜は、また一点を見つめていた。その視線の先にいたのは、黒い髪を首筋で結った黒い切れ長の瞳の、黒い背広を着た男。じっと、沙夜の事を見つめていた。
「誰? 知り合い?」
 沙夜は顔を横に振る。
「あの人・・・人じゃないです」
「えっ?」
 どう見ても人に見えるが、沙夜の瞳にはまた違う姿が映っているのだろう。この山の管理者なのかもしれない。由紀子は、乾いた畑に降り、男に話しかけた。
「あの、すいません・・・」
 男の冷たい瞳が、動く。だが、何も語ろうとはしない。
「『水及』という人を探しているんですが・・・」
「様を付けろ。お前たち如きが、呼び捨てにしていいお方ではない」
 いきなりそんなことを言われても、対応に困る。由紀子もどうしたものかと、目をぱちくりさせていた。
 男は、再び沙夜を見る。どこか懐かしいものを見るような――由紀子には、そう見えた。
「主がお待ちしております。私に付いてきてください」
 男は、歌宝山へと歩いていく。
「どうする?」
 由紀子は正直、考えあぐねていた。彼を信用する要素は、何一つとしてない。大人しく付いていくべきなのか。
「私、あの人のこと、知っているような・・・気がします。由紀子さん、ありがとうございます。ここからは、私一人で行きます」
 乾いた畑に、沙夜も降りた。
「ここまで来たら、一蓮托生よ。ね、神華さん?」
「はいはい。どこまでもお供いたしますよ」
「あの・・・」
「いいからいいから」
 沙夜の手を取り、由紀子は男を追いかけた。神華もその後を付いてくる。沙夜は、また困ったような笑みを浮かべっていた。

 男は、持っていた鐘を一定のリズムで鳴らす。静かで定期的なその鐘の音は、心の底の何かを呼び覚ますかのような、冷たい音色だった。すると、三人の目の前で、深い森に切れ目が走り、左右に別れた。切れ目には石段が配置してあり、曲がりくねって山の中に消えていた。
「凄い・・・」
 由紀子は、素直に感嘆していた。
「まるでモーゼのようですわね」
 と、神華も驚いている。
 物珍しそうに、周りをきょろきょろと見ながら、由紀子達は男に付いていく。
「あの・・・この先に、えと、水及様? はいるの?」
 由紀子の言葉に、男は答えなかった。黙々と登っている。
「気難しい人みたいね」
 溜息を一つ。沙夜が、隣で苦笑していた。
「不器用な人みたい。大丈夫です。この先、いると思います。とても、不思議な力を感じます」
 沙夜は、森を見つめていた。彼女の瞳には、由紀子や神華には見えないものが、見えているのかもしれない。
 石段は、それほどまで長くはなかった。登りきると今にも崩れ落ちそうな廃屋が鎮座した、少し開けた場所に出る。廃屋の大きさは、視界で補えないほど広い。かなりの年代物なのだろう。大部分が、木や蔦などに侵食されていた。由紀子達は、言葉もなくそんな廃屋を見つめていた。
 男は左折した。廃屋を迂回するようである。迂回した先は、人の手が加わっており、整然と木々や草花が並んでいた。迂回を始めて二分も経たないうちに、大きな木が見えてきた。幹の太さは、大木公園にどっかりと座り込んでいる『守り木』に匹敵するものである。その大木の前では、太陽の光さえまだらにしか届いてこない。木漏れ日が、大地で泳ぐ。
「水及様、お連れいたしました」
 大木の傘が届かぬ場所、太陽の光が何にも邪魔されず差し込まれている縁側に、彼女はいた。青い髪は腰までまっすぐに伸びており、まるで癖がない。一本一本が、美しい繊維のようである。瞳の色も、湖の青さを思い起こさせるような澄んだ青色で、見ているだけで心が穏やかになる。ゆったりとした薄い青色の衣を身にまとった彼女は、年の頃はぱと見、沙夜と同じぐらいにしか見えない。それぐらいの童顔であったが、普通の人とはどことなく違う雰囲気があることに、由紀子もさすがに気付いていた。
「お待ちしておりました。どうぞ、中へ。狼(ろう)命(めい)、もてなしの準備を」
 とりあえず、彼女の言葉に甘える事にした。
 縁側からお邪魔して、中に入るとそこは十二畳程度の畳の部屋となっていた。物といえば、小さな高さ五十センチ程度の机が置いてあるぐらいで、とても広々とした印象を与える。イグサの匂いが強く、由紀子は畳を踏みしめながら『うわ、本物だよ、これ』と呟いていた。
 狼命と呼ばれた案内してくれた男が、茶菓子や茶を用意してくれる。意外にも、普通に御櫻神社の櫻饅頭が出てきた。現代社会から切り離された、別世界のようであったが、その瞬間、ここは現代なのだと再確認できた。
「どうぞ、大したものではございませんが」
 狼命が部屋を出て行く。由紀子は、『いただきます』と言って、とりあず茶を一口啜った。
「遠路はるばる、よくお出でになられました。私の名は水及と申します」
「小泉由紀子です」
 続いて、神華と沙夜も名前を名乗った。水及の瞳は、穏やかであるが、どことなく冷たさも感じる。彼女の瞳を見れば見るほど、由紀子は不安を感じていた。
「あの・・・失礼な事を聞きますが、水及様は、本当にあの伝承の巫女なのでしょうか?」
「巫女は廃業いたしております。仕えるべき神がいないのに、巫女がいるのも変な話でしょ? どの伝承の事かは分かりませんが、この町の伝承なら十中八九、私のことだと思います」
 涼しい顔で、水及は千年以上生きている事を肯定していた。本人にそう言われたところで、眉唾な話であることには変わりはない。由紀子が、信じられない――そう思っていると、突然、くすっと水及が笑った。
「なんて、冗談です。私は、水及の知識を受け継ぎ、それを守り、伝えていくもの。名前も、ただ世襲しているだけで、本名は別にあるんです。この目もアイコンタクトで、髪は染めているの。水及は、千三百年も前の人です。さすがにそんなに長くは、人は生きられませんよね」
 ただ、からかわれていただけのようである。由紀子も表情を崩した。
「そ、そうですよね。さすがに、千三百年はないですね」
 しかし、隣に座っている沙夜は、由紀子と違って表情を崩していなかった。
「・・・あの水及様、私の能力を封印していただけませんか?」
 急に沙夜が話を切り出した。
「初代のサトリさんも、水及様に能力を制御する方法を学んだと、伝承であります。私、この能力に・・・もう振り回されたく、ないんです」
「異なる力は、異なるモノを呼ぶ。異なる力を有するものは、力を有さない者達にとって害そのものである。苦しんできたのですね。少しお手を」
 水及が、沙夜の右手を両手で優しく持ち上げる。沙夜は少しビックリしていたが、手を引っ込めることはしなかった。
「変ですね」
 水及が戸惑いを示す。
「変・・・?」
「あなたには、『堰(せき)』がない」
「セキ?」
「流れを堰(せ)き止めるもの、ようするに制御する部分が見つからないんです。これは困りましたね」
「同じ能力、というならサトリにも『堰』はなかったんじゃ・・・?」
 由紀子の疑問に水及はかぶり振る。
「いえ、彼女にはありました。だから、『変』なんです。サトリと同じ能力、同じ目の色、同じ顔をしているのに、『堰』だけが存在しない。どうして・・・理解できません」
 沙夜の手を離し、水及は考え込む。今は、彼女が素晴らしい案を出してくれることを祈るしかない。
「仕方ありません。封印をいたしましょう」
「封印できるんですか?」
「それが出来るなら、手っ取り早いわね」
 気楽に言う由紀子と違って、水及の表情は優れない。
「しかし、氷女さんの場合はとても難しい工程になります。本来封印とは、その人の中にある『堰』を外部から力を加えて開かないようにすること。もしくは、開き方を忘れさせることになります。でも、沙夜さんには『堰』がありません。すなわち、彼女の意思とは関係なく、能力は発動してしまう。これを発動させないようにするには、能力があることを忘れさせるしかありません。精神に直接手を加え改ざんするのは、人格が壊れるリスクを伴ってしまいます。大変危険です」
「そんな・・・」
 落胆する由紀子。しかし、沙夜は少し違っていた。人格が壊れるかもしれないリスク。それでもこの能力が発動しなくなるのなら――そう考えていたとき、水及が『あっ』と呟いた。
「私としたことが失念しておりました。一つだけ、安全で確実な方法があります。少し、待ってもらえるかしら?」
 水及は、三人の返事を待つことなく立ち上がり、廊下へ。
「狼命、狼命」
 と呼びながら、彼女はどこへともなく歩いていってしまった。水及がいなくなると、部屋の空気は一気に軟化した。
「はぁ、なんか疲れるわ、あの人」
「そうですか? 私は特に何も」
 神華の視線は、沙夜が手を付けていない饅頭に向けられている。
「あ、どぞ。私はいらないので」
 それに気付いて、沙夜はあっさりと饅頭を彼女に渡した。神華はとても嬉しそうである。
「あらまぁ、沙夜ちゃんはやっぱりいい子ですね」
「そんなに食って、太るわよ」
「大丈夫ですよ。由紀子さんと違って、お腹には溜まりませんから」
「腹のことは言うな! てか、なんで知っているのよ?!」
 お腹の肉のことは、由紀子にとってはタブーである。誰にも話したことはないことなのに、それを知っている神華とは一体何者なのか。侮りがたし、神華。
「つぶさに観察していれば、大抵の事は見えてくるものです」
 にやりと笑う神華の顔が、悪魔の笑みのように見えた。
「じっくり観察されているモルモットの気分が、今分かった気がした」
 げんなりと呟く由紀子に、苦笑する沙夜。そんな話をしていると、水及が部屋に戻ってきた。
「さて、話がまとまりました。今から、橘家に向かってください」
「橘家に? うわ、櫻町縦断・・・」
 歌宝山は、櫻町の北。橘家は、櫻町の南に位置する。まさに櫻町の縦断であった。
「狼命に車を出させます。安心してください」
「なにからなにまで、ありがとうございます」
 沙夜の言葉に、水及は笑顔を浮かべる。
「気になさらないで。ただ、これだけは忠告しておきます。沙夜さんの能力は、非常に危険です。一度封印したら、二度と使わないことをお勧めいたします。あなたの力は、利用価値が高い。よこしまな輩を近づけないためにも・・・くれぐれも他言無用です」
 最後の言葉は、神華と由紀子に向けられた。二人は静かに頷いた。
「もし、何かあればまた私を訪ねてください」
「はい、本当にありがとうございました」
 深々と頭を下げ、由紀子達は山を降りた。

END


第六話は、すでに修正済みました。
話自体は、改訂前とほぼ変わらないかと。いらないところを削りまくっただけです。
明日も、安定して小説を更新できそうです。
第七話は、現在中盤あたりを修正中です。意外に、早く終わりそうですこっちも。
問題は、第九話〜第十話かな。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
由紀子・夏樹編 第五話 沙夜の能力を封印しましょう 前編 堕天王の逝く道/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる