堕天王の逝く道

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zoom RSS 成人式をテーマにした短編

<<   作成日時 : 2008/01/22 00:02   >>

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ふと思いついて、息抜きがてらに書きました。
物凄く短いです。
一応、HPで公開している空白ノ翼シリーズのサイドストーリーという扱いになっています。
では、どうぞ。



 彰人の成人式

<登場人物>
立川望:櫻高校一年生。夏に起こった『雪女騒動』の中心人物。本名は、忌部(いむべ)望。忌部家の前当主の息子であるが、現在忌部家とは離縁している。
忌部彰人:望の腹違いの兄。母は、毒殺されている。望を手に入れるために、『雪女騒動』を引き起こした首謀者。望が愛した女性を結果的に殺してしまった彼は、罪を償うために望の傍で暮らしている。
黒木羇佐:長野県のとある山に住まう『雪女』。人間の時の名前は、立川羇佐。彼女を守って瀕死の重傷を負ってしまった望を、己の命を使って回復させ、代償に消えてしまう。後に、『存在』していることが判明するが、どこでどんな形になっているのかはいまだ不明。
沢村遙:沢村探偵事務所の探偵兼除霊屋。彰人は、彼女の下で仕事をしている。

除霊屋:『この世の理から外れしモノ達を調整する者』達の総称。一言で言えば、化け物退治屋。遙は、橘家という除霊屋の下請け。


 背広をビシッと着て、赤いネクタイを調整する。今日は、成人式だ。なのだが、彼の表情はどこか優れない。切れ長の瞳をさらに細め、嘆息を一つ。中性的な容姿を持つ彼が憂いを帯びていると、同性でも騙されかねない妖しさに満ちてしまう。
「兄さん、準備できた?」
 畳の六畳間の部屋に入ってきた、活発そうな雰囲気を持つ少年。背広を着た青年――忌部(いむべ)彰人(あきひと)の弟、立川望(のぞむ)である。
「望、やっぱり私は・・・」
「成人式、兄さんには出て欲しい」
 成人式なんてものは、懐かしい知人に会うぐらいの目的しか本来はないのだから、この町に暮らし始めて半年程度の彼が行く意味なんてものはまるでない。それなのに、弟は断固としてそれを認めなかった。
 大好きな弟であるが、理解には苦しむ。
「どうして成人式なんていう行事に固執するんだ?」
 だから、もう一度聞く。前聞いたときは、自分で考えて欲しいと突っぱねられた。しかし、結局今でもその答えは分からないままだった。
「なら兄さんは、どうしてそこまで行かない事に固執するの?」
「それは・・・意味がないから」
 望が、溜息を一つ吐いた。彰人は、そんな彼を居心地の悪そうに見守るしか出来ない。
「兄さん、それが分からない限り、僕は・・・羇(き)佐(さ)を奪ったあなたを許しはしません」
 言葉を詰まらせる彰人。羇佐――弟の間に今でも立ちふさがる大きな壁。心が痛む。
「・・・分かった。行くよ。望に嫌われたくない」
 やっと望が表情を崩す。そして、『ネクタイ曲がっているよ』と、整えてくれた。
 羇佐から預かった大切なもの。
 たった一人だけの血の繋がった弟。
 彼の言葉の意味が分かるかは自信がないが、これ以上悲しませたり、怒らせたりはしたくない。
 気持ちを入れ替えて、彰人は成人式へ行く事にした。

 成人式は、滞りなく終わってしまった。退屈で、眠たい時間。会場の外では、旧友との出会いを喜び、これからどこに行こうかと相談する声が溢れている。
 彰人は一人ぼっち。そう、それは分かりきっていた事。望の真意は、まるで見えない。乱雑な騒ぎに飽きた彼は、道路に繋がる階段を一人降りていく。
「むっ? 彰人君、見っけ!」
 そんな彼に声をかけてきたのは、年の頃はあんまり変わらない、どことなく日本人離れをした顔立ちの髪の長い女性。ダークブルーの瞳を嬉しそうに細めて、手を無駄に大きく振っていた。
「・・・遙さん」
 沢村遙。彰人がお世話になっている事務所の所長である。
「いやぁ、成人式に出るって弟君から聞いてさ、彰人君の胡散臭いスーツ姿を身に来てやったのよ」
「胡散臭い・・・ですか」
「元が美形だから、そうしていると本当にホストね。もしくは、結婚詐欺してそう」
「・・・帰ってください」
 遙のテンションの高さにうんざりして、追い払いにかかる。悪い人ではないのだが、いまだに彼女のテンションにはついていけない。
「何言っているのよ。さぁ、居酒屋に行くわよ! ちなみに来ないと、給料五十パーセントカットだから」
 冗談で言っているようだが、実は本気なのがこの遙の怖いところ。給料が減らされては、生活が出来ない。彰人は、はぁと溜息を吐いて諦めた。
「分かりました。行けば宜しいのですね、遙お嬢様」
「なに卑屈になってんのよ。少しは馴染みなさいよ、この世界に」
 遙の言葉が、彰人の心の扉を叩いた。
「この世界に・・・?」
 そして、彰人は答えをあっさりと導き出した。今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるほどに。
 苦笑を浮かべて、頭を掻く。
「そうか、私はこの世界で生きると決めたんだ」
 全てを奪った羇佐を倒し、望を取り返すためだけに生きてきた。
 しかし、それはもう終わったこと。
 忌部家から離れ、普通の高校生として暮らしている望の傍で生きる。非日常的な世界からの脱却こそが、彰人が望むものだった。
「・・・久し振りに思い出せた?」
 彰人を見守っていた遙が、そう聞いてきた。彼女は、事のあらましを知っている。知っていて、彰人と付き合ってくれているのだ。
「遙さんには敵いませんね。今度、デートしませんか?」
「へっ? な、なに言ってんの、急に!」
 顔を真っ赤にして戸惑う遙。
「最近、大変興味深い心霊スポットを・・・」
「くたばれ!」
 太ももを全力で蹴られる。
 遙の体術は相当のものだ。本気で蹴られると、骨が砕けたのではないかと思えるほどの衝撃が体を駆け巡る。
 遙は、除霊屋という仕事をしているくせに、幽霊が苦手という変わった人なのだ。ちなみに、恋愛ごとにも疎い。
「まったく、油断するとすぐ人をからかうんだから。照れ隠しするなら、もっと可愛くやりなよ」
「・・・考えときます」
 彰人は、痛みに堪えながら呟いた。そんな彼を責め立てて、車の中に押し込む遙。傍目から見ると、まるで拉致されているかのようである。
 憎まれ口を吐きつつも、結局は彼女の誘いに応じてしまう彰人。
 それはそれで、彼にとっては楽しい『日常』だった。

 END

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