堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第十二話 『母神とアマトキ』

<<   作成日時 : 2015/12/16 17:29   >>

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第十一話『眼鏡のあなた』
第一話〜第十一話

 あらすじ
ナグモが引き起こした神隠し事件に介入し、ナグモを打ち破った神、『母神』。アマトキは、慶介を伴ってその『母神』に会いに行くことに。母神とアマトキ、二人の関係を少しだけ描く。

 登場人物

 アマトキ
 慶介の願いに呼応して降臨した、忘れられた神。遂に衣服を得て、自由の身に。

 藤木慶介
 一人暮らしをしていたが、アマトキを呼びだしてしまった事で、厄介事に巻き込まれる事に。


 天鈿女
 アマトキを勧誘しに来た神様。その目論見は潰えたが、アマトキを監視するという名目で居候することに。今回は、出番がない最下層の住人。

 ナグモ
 慶介に憑りついている土蜘蛛。念願かなって、慶介と共に暮らす事が出来るようになった。アマトキの面倒を一番見ている、藤木家のお母さん。



 第十二話 『母神とアマトキ』

 宇美の八幡宮。歴史に纏わる貴重な資料が焼失してしまったため、いつ頃建立されたのかは分かっていない。敏達天皇が建立した――となっているが、それを実証するものがなにもないのである。敏達天皇が建立したのが間違いないのであれば、千四百年以上の昔からこの地を守っていることになる。
 慶介とアマトキは、その宇美の八幡宮に足を運んでいた。
「ここが今の八幡宮なんだ」
 周りを見渡しながら、ぽつりと零す。
 駐車場は、参道の真横にあるため、周囲はほとんど木々に覆われている。奥の方に社の一部が少し見える程度である。
 事の発端は、昨夜のことだった。
「母神に会いに行く」
 慶介が明日休みだという話を聞いたアマトキが、そう言いだした。
「母神?」
 慶介は不思議そうにしている。彼には、神隠しにあっていた間の記憶がないからである。
「私の知り合いだよ。八幡宮に連れて行って」
「いいよ」
 断る理由もないため、快諾した。
「私はパス」
「ご遠慮します」
 母神との関係が微妙な天鈿女とナグモ。二人が同行しなくなったため、初めて慶介とアマトキの二人きりで、出かける事となった。
「そっちからじゃないよ。こっちから」
 参道に上がる小さな階段に向かおうとした慶介を、アマトキが呼び止めた。
 駐車場から一回出て、参道の入り口に立つ大きな鳥居の前へ。アマトキは、その鳥居を潜らず、まるで鳥居に壁があるかのように、右の平を掲げた。
「アマトキだよ。入場の許可、お願い」
 するとアマトキの右の平から、水に石を静かに落したような波紋が広がった。
「いいって」
 ほんの僅かな時間だった。慶介の耳には何も届いていなかったが、アマトキには何かしらの方法で伝わったようである。
「ほい」
 アマトキが、左手を差し出してくる。それは、結婚式で夫婦が手を取り合う形に良く似ていた。そんな仕草に、慶介の心が揺れた。
「こ、小遣い?」
「……? 手だよ。手を繋がないと、中に入れない」
「あぁ、そうか。手を繋ぐのか」
 簡単に言うなよ――心の中で呟く。
 恐る恐る手を伸ばす。そんな慶介の手を、アマトキはぱっと取った。
 小さくて柔らかい手の感触。それに気を取られる暇もない。アマトキに引っ張られ、鳥居を潜った。
 鳥居を潜る際、特別な感触があったわけではなかった。アマトキが消え、自分の手、腕が消えたかと思うと、次の瞬間にはアマトキも自分の手や腕も目の前にあった。ただ、周囲は一変していた。
 まっすぐに貫く石畳。汚れも欠けもしておらず、不自然に綺麗だった。石畳の先は、立ち並ぶ木々が幾重にも伸ばす枝によって見えなくなっている。木々の正体は、大きな楠。右を見ても左を見ても、必ず楠の幹に視線を遮られてしまうほど、多くの楠が生えていた。
 とても静かな場所である。楠が揺れる音以外は、何も聞こえない。
 静謐なる空気。自然と背筋を伸ばしてしまう。
「凄い……これ、どうなっているんだ?」
 慶介は周りをキョロキョロと見渡している。
「現世(うつしよ)と幽世(かくりよ)の狭間。俗っぽく言うと、2.5次元という感じかな」
「2.5次元……」
「神は、それぞれこの2.5次元に自分の領域を持っている。色々と理由があるんだけど、説明するのが面倒臭い」
 慶介は苦笑する。
 石畳を進む。二人の足音が響いて、虚空に消えて、波のように。
 歩き始めて、間もなくのこと。
 二人の前に、二人の女の子が現れた。年の頃は、小学生高学年ぐらいか。真っ白な着物と巫女装束を合わせたような服を身に纏っている。その二人は、愛想の良い笑顔を浮かべて、慶介とアマトキに手を降っていた。
「久しぶり」
 アマトキは、表情を崩す。
「どもども、アマトキ。本当に久しぶりだね」
「久しぶりですね。久しぶり」
「この子たちは?」
「ユガイとコロモだよ。神木に宿る精霊」
「はいはい、どうもどうも、はじめましてですよ、藤木慶介君。私は、コロモ。コーちゃん、と呼んでくださいましー」
「はじめまして、こんにちは。ユガイですわ。ユーちゃん、と呼んでくださいまし」
『ねー』
 二人は、ぴったり声を合わせた。
「こ、こんにちは」
 ユガイとコロモに、どう対応していいのか、慶介は戸惑っていた。
「母神は?」
「神殿にいますよー。ここからは、私たちがご案内つかまつりまする〜ですわ〜」
「まする〜、だよ〜。と、言ってもまっすぐに進むだけなんだけどねー」
「ねー」
 愉快な存在、と言うべきか。
 二人? 二柱? 二匹? ともかく、彼女らに案内されて、アマトキと慶介は奥に進んでいく。
 アマトキは、二人の少し後ろを歩き、楽しげに会話をしている。慶介は少し離れて歩き、それを見守っていた。
「結局、件(くだん)の藤原はどうなった? 死んだ? くたばった?」
「件の藤原?」
「あれだよ、都落ちの陰鬱ブサメン。顔がこ〜んなに横に伸びている、蛙みたいな奴。だよねー?」
「そうそう、牛蛙みたいなの」
「牛蛙! はははっ、あっ、思い出しました。あれですか、件の藤原。死にましたよ。何も成せずに、ぽっくりと病で死にました」
「そうか。すっとした。こういう時は、ざまぁーと言うんだよね」
「そうそう!」
『ざまぁー!』
 三人の会話の内容が良く分からないが、小学生たちの帰宅光景のようだと、慶介は思った。
 かしましい三人に続いて歩くこと、五分程度。楠のトンネルを潜り終え、少し開けた場所に出た。
 家が建っていた。趣のある、厳かな雰囲気の神殿――ではなく、本当に普通の一戸建てが、そこにあった。慶介は、そのあまりにもミスマッチな光景に目を丸くしていた。
「な、なんぞ」
「随分と、現代風にしてあるんだね」
 アマトキは、さして驚いていなかった。
「五年前ぐらいにリフォームしましたのー。リフォーム、リフォーム、噛まなくて言えましたよー!」
「時代の最先端だね。オール電化で、光回線完備なんだよ」
「さすがに、この世界だとなんでもありだね」
「さすがに通販は届かないけどね」
「コンビニに荷物を取りに行かされるのは、いつも私たちですの」
「ついでにアイスとか買うけど」
「当然の報酬ですねー」
「ねー」
 ユガイとコロモに案内されて、リビングへと通される。広さは、十二畳程度か。目的の母神は、大きなソファーに身を委ね、テレビを見ていた。テレビに映っているのは、ニュース番組のようだ。
「母神」
「来たか。まぁ、座れ」
「いい。どうせすぐ帰る」
 母神は苦笑する。
「そんなに寂しい事を言うな」
「私がここにいる時間だけ、あなたに迷惑をかける」
「そんなこと、気にしなくても良いというのに」
 そこで母神は、慶介に視線を移す。
「藤木慶介よ、良く来た。アマトキが、いつも世話になっている」
「あっ……はい」
 慶介は、言葉を失っていた。
 母神。慶介が生まれたこの宇美の地を守護する神であり、慶介の産土神でもある。それは、氏子にとって偉大なる母。心に満ちる敬う気持ちが、慶介の言葉を奪っていた。
「で、アマトキ。用件は?」
「この間は、ありがとう。助かった」
 母神は目を瞬かせる。
「それだけ」
「本当に律儀な奴だな。私にわざわざ礼を言う事もないだろう。私は……」
「私は、一度も母神を恨んだことはないよ」
 アマトキは、母神の言葉を遮った。
「しっ、しかし!」
「恨んだりしていない」
「そ、そうなのか……本当にそうなのか?」
「もうしつこいなぁ。恨んでないったら。あの時は、あれしか方法がなかった。しょうがなかったの」
「しかし、あの時私が間違えなければ!」
「どうにもなってないよ。あれは、何も決められなかった私が招いた結果だよ」
「そうか……」
 母神は、ソファーに両手をついて項垂れていた。
「うん。あっ、一応息子さんにも、迷惑をかけたと言っておいてよ」
「分かった。言っておく」
 顔を上げた母神の顔には、諦念を含んだ笑みが張り付いていた。
「まったく、お前は本当にまっすぐだな」
「他を知らないからね」
 ユガイとコロモに見送られ、母神の異界から出る。
 現実世界でお参りをした後、境内のお店で子持ちたい焼きを食べた。
 アマトキは、嬉しそうに大きい方のたい焼きを頬張り、慶介はそれを暖かく見守っていた。

 私は、アマトキ。
 少しだけすっきりしたよ。


 END

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