堕天王の逝く道

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zoom RSS 幽世喫茶十二作目『太陽神の御来日』

<<   作成日時 : 2014/11/09 19:54   >>

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幽世喫茶の第十二作目となります。十一作目から一年と四ヶ月も経過してしまいました。大変お待たせしました。


幽世喫茶については、『幽世喫茶目録』をご覧ください。


今回のお話のあらすじ
幽世喫茶に再び届いた木箱。中から姿を現したのは、ケツァルコアトルと名乗る女の子だった。「オセロットに会いたい」と語る彼女に纏わるお話です。
第四話の『壺の中の人喰い神』の続編です。




   『太陽神の御来日』


 誰も彼も死んでしまった。この地には、最早『元』人間が一匹、残っているだけである。彼の全身を覆う鮮血は、同胞と殺した敵の血。両膝を大地に付き、雲一つない真っ青な空を仰ぐ。
「我は……一人になってしまった……」
 その声に応えるものはなく、ただただ吹き抜けていく風に流されていった。途方に暮れ、失意が身を縛り、動く気力もない。このまま、風化して大地に溶け込んでしまえればどれだけ楽か。そんな事ばかりが、脳裏を過っていく。
 どれほどの時間が経過したのだろうか。
 大地を踏みしめる音が響いた。視線を巡らせると、白い衣服を身に纏った少女が、従者をぞろぞろと従え、こちらへと歩いて来ていた。
「生き残りがいましたか」
「誰だ……? お前……」
 少女は、金色の瞳を細め、柔らかい笑みを浮かべた。静かに己の胸に右手を添え、彼女はその名を告げた。
「私の名は、ケツァルコアトル。テスカトリポカを滅ぼすために、あなたの力を私に下さい」
 それは遠い遠い昔の異国の地の出来事。


 若草山の中腹に店を構える幽世(かくりよ)喫茶。その店先には、店長の乙衣兎渡子(おとぎぬととこ)と従業員である付喪神(つくもがみ)のマイ、それと兎渡子の親友である春野蓮華(れんげ)の姿があった。
「この木箱、またなのか」
 うんざりとした様子で蓮華が言う。店先には、一抱えはある木箱が置かれていた。兎渡子たちは、その木箱から少し離れた場所から、木箱を観察している。
「送り主は、やっぱりお母さんみたい」
 貼り付けてあった伝票を二本の指で挟み、ひらひらと泳がせながら兎渡子が答える。
「あの化け物の時と同じ展開ですが……以前みたいな嫌な気配は感じません」
 不思議そうにマイが首を傾げている。
「同感だな。今度はさすがに悪いものは入っていないんじゃないのか」
 そんな風に話していると、三人とは別の声が混じった。
「どうやら着いたみたいですね」
 のんびりとした声音。木箱の上に、突然少女が姿を現した。
 年齢は、十代の前半程度か。白いワンピースを纏った細身の少女。髪は白くて長く、腰の辺りまであり、目は綺麗な金色であった。
「女の子が湧いてきた」
 驚いた兎渡子は、思わずそう呟いていた。蓮華もマイも、突然の事に目を瞬(しばた)かせるだけで、完全に言葉を失っていた。
「あなた、ソラチの娘ですね? 魂の輝きが似ているわ」
「空知(そらち)は、私の母よ。お母さんの……知り合いなの?」
 怪訝(けげん)そうにしている兎渡子と違って、少女は目を輝かせている。
「ソラチは、親切な人。私をここまで導いてくれました」
「あなたは、一体何者? 当然、人間じゃないよね?」
「私の名は、ケツァルコアトル。オセロットに会いに来ました」
「オセロットに?」
 場所を、幽世喫茶へと移す。木箱は、開封せずそのまま外に放置となった。ケツァルコアトル曰く、中身は何の変哲もない壺で必要のないもの、とのこと。
「キャー! これがケーキね! この赤い実は何かしら? 食べていいの? 食べていいの?」
 普通の珈琲とショートケーキを振舞うと、ケツァルコアトルは子供のように目を輝かせた。
 接客はマイに任せ、兎渡子と蓮華はカウンターで作戦会議。
「ケツァルコアトルといえば、アステカの太陽神か」
「だな。オセロットの事を調べた時に名前を見た。破壊神の次は、太陽神か。オセロットの敵か?」
「オセロットって、確かケツァルコアトルと敵対しているテスカトリポカと同一視されていたはず。なんか友達に会いに来た、みたいな様子だけど、演技なのかな」
 そう疑って見てみるが、ショートケーキを美味しそうに頬張っているケツァルコアトルからは、まるで殺気を感じられなかった。これが演技だというのであれば、彼女は相当な役者か、二面性を持った存在ということになる。
「とりあえずオセロットの居場所をすぐに教える事には反対する」
「そうね。オセロットに電話してみましょう」
 早速オセロットが間借りしている老夫婦の家に電話をかけてみる事にした。しかし何度コールしても、電話を取る気配はなかった。
「農作業中かな。蓮華、悪いけど、畑を見に行ってくれない?」
「分かった」
 蓮華は、すぐに店を出て行った。彼女がオセロットと連絡を取るまでの間、兎渡子はケツァルコアトルの相手をすることにした。
「あなたに、いくつか聞きたいことがあるのだけど」
「なんでしょう? 隠し財宝は多分盗掘されてもうないと思いますけど」
 口にクリームを付けている姿は、神の威厳を完全に損なっていた。マイが気を遣って、綺麗にしてくれた。
「あなたは、オセロットの敵?」
「違いますよ」
 即答だった。
「オセロットは、神話ではテスカトリポカが姿を変えたもの、ということになっているけど」
「そうですね。でも、オセロットとテスカトリポカは、本当は別の存在です。アステカの神話は、ごちゃごちゃと混ざっているから、あてになりません。オセロットには、その話はしないで上げてください。オセロットにとってテスカトリポカは、同族を殺した憎い敵なのです。同一視されている事を毛嫌いしていますから」
「そうなの」
 兎渡子は、ケツァルコアトルがオセロットの敵ではないと、この時点でなんとなく察した。気が抜けた彼女は、ケツァルコアトルの前の椅子に座った。
「一応、オセロットに今確認しに行っているから。簡単に居場所を教えるわけにはいかないこちらの事情、理解してくれる?」
「はい、大丈夫です」
 ケツァルコアトルの浮かべる笑みは、全く曇りがない。とても活き活きと輝いていた。
「ところで、どうやってこの場所が分かったの? お母さんに教えてもらったの?」
「ソラチには、たくさんお世話になりました。インターネットで、オセロットの居場所を見つけてくれました」
「インターネットで……?」
 ケツァルコアトルは、ポケットから折りたたまれたA4のコピー紙を取り出して、兎渡子に手渡した。そこには、『オセロットの土いじり』というタイトルのブログが印刷されてあった。
「……あいつは馬鹿なの?」
 兎渡子は、完全に呆れていた。
「ブログなんてしていたんですね。ますます俗世にどっぷりですね、あの破壊神」
 マイも呆れた様子でそう言った。
「そこに映っている写真が、ソラチの知っている場所だったみたいで、後は壺の中に入って、送ってもらいました」
「壺に妖(あやかし)を詰めて輸送するのが流行らなければいいけど」
 兎渡子はそんな事を心配せずにはいられなかった。
「しかし、マスターのお母様は、まだメキシコにいらっしゃるのですね」
「一体、何をしているんだか。お母さん、何か言っていた?」
「あの世とこの世の境が曖昧な場所を探していると言っていました」
「あの世とこの世の境?」
「はい。いくつか知っていましたので、お礼に教えました。逆に私が聞きたいです。何故、そんな所をソラチは探しているのですか?」
「さぁ? お母さん、そこの所は何も教えてくれなかったし。あの世とこの世の境ね……」
 釈然とせず、兎渡子はそう繰り返した。
 蓮華がオセロットを連れて戻ってきたのは、それから一時間弱経ってからのこと。その間、兎渡子はマイと共にケツァルコアトルとたわいのない話をして過ごしていた。
「兎渡子、連れてきたぞ」
 最初に蓮華が入って来て、その後からオセロットが入って来た。
「オセロット!」
 ケツァルコアトルが弾けるように立ち上がったのと違って、オセロットは渋面であった。
「久しぶりですね。元気でしたか?」
「お久しぶりです、ケツァルコアトル様。しかし、この力を失った我に、何をお望みに?」
「私は、ただあなたに会いに来ただけです」
「我に会いに……?」
「そう、ただ会いに来ただけ」
 ケツァルコアトルは、ただただ嬉しそうに笑うばかり。
「オセロットは相変わらず真面目なのね。私が、あの時のようにあなたの力を貰いに来た、と思っているのでしょ? 安心して。今さら、テスカトリポカの事なんてどうでもいいの。私にしても、テスカトリポカにしても、もう役目を失った亡霊みたいなものよ。でもね、幸いにも私は、『オセロットに会いたい』という目的を得る事が出来た。だから、とても嬉しいの」
「……ケツァルコアトル様」
 呆けていたオセロットであったが、ケツァルコアトルの気持ちを理解し、ようやっとその渋い顔を柔らかくした。
「そうですか」
 オセロットはケツァルコアトルの前に座り、兎渡子たちはカウンターの奥へと引っ込んだ。そこから二人が楽しそうに会話を紡いでいるのを、どこかほっとした様子で見守っていた。
「兎渡子、幽世珈琲をケツァルコアトル様に」
 オセロットから注文が入った。兎渡子は、突然の事に目を瞬(しばた)かせる。
「また変なことにならない?」
「大丈夫だ。前は、半分演技だったからな」
「半分でも不安なんだけど」
 渋々ながらも、両手の手袋を取って、兎渡子は一杯の特殊な珈琲を淹れる。何も特別な事をしていない珈琲であるが、兎渡子の指が直にカップに触れた時、その珈琲は特殊な力を帯びる。それが、幽世珈琲である。
「どうぞ。効果は私もちゃんと把握していないのだけど、記憶を復元する効果があるみたい」
「一杯程度であれば、大事にはなりません」
 オセロットがそう続けた。
「どういうこと?」
 幽世珈琲を継続して飲み続ければ、何かしらの変化が起きる、そんな言い回しであったため、兎渡子が疑問を呈した。
「その内分かる」
 オセロットはそれ以上語るつもりはないようであったため、兎渡子は釈然としないまま、その場を離れた。カウンターの奥に戻り、そこからケツァルコアトルの様子を窺う。
「これが、オセロットが飲んだという幽世珈琲ですね。不思議な香りと色合いを帯びていますね」
 ケツァルコアトルは、香りを堪能した後、くくっと幽世珈琲を口に含んだ。味わい、嚥下する。
「……苦いです」
 そう呟いた次の瞬間、ケツァルコアトルの体が小刻みに震えた。
「ケツァルコアトル様……?」
 珈琲カップを持つ手が震えていたため、オセロットは両手でケツァルコアトルの手を握って、カップをソーサーの上に落ち着かせる。そんなオセロットの手に、暖かい水滴が落ちて来た。何事かとケツァルコアトルの顔を見ると、彼女は大粒の涙を溜めて、今にも泣きそうな顔をしていた。
「私……おうちに帰るぅ〜〜〜〜!!」
「なっ、なっ、なっ! 兎渡子、何を飲ませた?!」
「いつもと同じ物よ! ほら言わんこっちゃない! やっぱり大事になるじゃない!」
「トウモロコシが食べたい!!」
 泣いて子供の用に両手を振り回すケツァルコアトル。オセロットは、どうしたものかとたじろぐばかり。
「オセロット! 責任もって何とかしろ!」
 蓮華に叱咤されつつ、オセロットはケツァルコアトルを必死に宥めた。結局、三十分ほど駄々をこねた後、まるで糸が切れたようにぱたりとその場で寝転がってそのまま寝入ってしまった。
「これも演技?」
「……いや。少々、刺激が強すぎたのかもしれない」
 兎渡子の言葉に、渋い顔でオセロットは答えた。
「女の子はそれだけデリケートなのだ」
「お前に言われると心外だ」
 蓮華の言葉にそう返しつつ、オセロットはケツァルコアトルを抱きかかえた。
「ケツァルコアトル様がこれからどうなされるおつもりなのかは分からないが、今日は一旦、ウチに連れて帰る事にする。迷惑をかけた」
 オセロットは、そのまま幽世喫茶を後にするかと思いきや、入り口の所で足を止めた。
「兎渡子、こういうことなのだ。幽世珈琲がどういうものか、少し考えてみるといい」
 肩越しに兎渡子を見た後、オセロットは幽世喫茶を後にした。
「……こういう事ってどういうこと?」
 釈然としないものの、幽世珈琲がどういうものなのか、それを今一度見つめ直す事は大切な事なのかもしれない、そう兎渡子はケツァルコアトルが残した珈琲を見つめながら思うのであった。



 ここは幽世喫茶。
 太陽神も訪れるお店。



 END



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