堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第八話 『幻想生活』

<<   作成日時 : 2016/06/08 21:07   >>

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H28年6月8日 文章を調整したため、入れ替えました。




 第七話『慶介消失』
 一話〜七話


   前回までのおはなし


 福岡県糟屋郡宇美町の障子岳地区にある塔ノ尾公園。藤木慶介は、そこでアマトキという神の降臨に立ち会う。縁あって、慶介とアマトキ、人と神の共同生活が始まった。そこに、天鈿女が現れる。彼女は、『八百万システム』なる、神様の寄合のようなものに、アマトキを勧誘しに来た。これを、アマトキは拒絶。慶介の手伝いもあって、天鈿女を退けた。これで一段落と思いきや、間もなく慶介が異界に引きずり込まれるという事件が発生。犯人は、慶介の家に巣食っていたタタリ神であることが、天鈿女の口から明かされる。異界への門を作る事が出来ないアマトキは、天鈿女と約束事をして、彼女に異界への門を作ってもらう。
 慶介を現実に連れ戻すため、アマトキと天鈿女は、タタリ神が作った異界に挑む。




   第八話『幻想生活』



 何でもない日々。
 目覚まし時計の音で目を覚まし、朝食を食べて、学校へと向かう。
 家を出た所で、幼馴染の凪(なぎ)と合流する。朗らかに笑う彼女と『おはよう』と言葉を交わして、共に学校へ向かう。学校までの距離はおよそ一キロメートル弱のため、徒歩でも苦にはならない。
 小学校を横目に見ながら坂を下り、二車線の道路を渡り、その先の畦道をまっすぐに進む。
 仲山川にかかる小さな橋を越えて、農協の横を通り、筑紫野古賀線を越えたら、学校はすぐそこだ。
 他の生徒たちと混じりながら、本屋の裏手から坂を登っていく。


 それはいつもと変わらない日々。
 そう、いつもと変わらない日々。
 藤木慶介は、何の疑問を持つことなく、その日々に溶け込んでいた。


 天鈿女(あまのうずめ)が作り上げた、注連縄(しめなわ)で括られた異界への門。そこを抜けた先は、非常に殺風景な場所であった。
「おっとっとっ……?」
 勢い余ったアマトキは、トントンと跳ねながらバランスを取ろうとしたが、上手く行かずにぺたりと座り込んでしまう。すぐに天鈿女も追いかけて来た。
 地面は、むき出しのコンクリート。暗い色をしており、色合いとしてはアスファルトに近い。表面はざらざらしている。色が暗くなっているのは、気象による経年劣化によるものであろう。
 背の高い金網に覆われており、丁度アマトキの後ろに扉がある。その扉の部分以外の視界は開けており、特に扉を背にして左側は広い範囲で町の姿を俯瞰(ふかん)する事が出来た。逆に右側は、駐車場と上り坂、そして小高い丘があって遠くまでは見渡す事が出来なかった。
「学校の屋上ね」
 天鈿女が、今いる場所をそう結論付ける。
「なんで学校? それに多分ここは……」
 アマトキは首を傾げつつ、周りを何度も見渡している。
「知っている場所なの?」
「うん、多分……慶介が通っていた中学校だね」
 天鈿女が呆れた顔をする。
「もしかして、記憶を覗いたの?」
 アマトキは、バツの悪い顔をする。
「可愛そうに。良くそんな酷い事できるわね。慶介君に同情するわ、割と本気で」
「うぅ……手段を選んでいる状態じゃなかった」
 アマトキは、慶介と出会った時、現代の情報を全く持っていなかった。現代の言語さえ有しておらず、コミュニケーションを取る事さえままならなかった彼女は、慶介の記憶を閲覧する、という方法を取らざるを得なかった。
「そんな事よりも慶介を探すぞ!」
「黙っておいてあげるけど、一つ貸しね」
 話を逸らそうとしたが、通用しなかった。
「わ、分かった。というか、アンタなら慶介がどこにいるか分かるんじゃないの?」
「そりゃ当然……と言いたい所だけど、さすがに他人の結界内だと、本体と接続できないから無理よ」
 そう天鈿女が語った直後、ギィと鈍い音を立てて、突然扉が開いた。扉は半ばまで開いた後、ぴたりと止まる。扉の向こうには、誰もいないようである。
「こっちに来い……ということみたいね」
「上等!」
 アマトキは意気揚々と扉を潜り抜け、天鈿女がその後を追いかけた。
 埃っぽい空間だった。窓から差し込む光が、そんな埃の姿を浮き彫りにしている。
 踊り場には、古い掃除用具が二つと、これまた古い机と椅子が重ねておいてあった。その合間を縫って、階段を降りていく。階段を下りた先には、また階段となっていた。先程の狭い空間と違って、両側に道があり、前面は窓になっていた。音が何もしない。アマトキと天鈿女が廊下を踏み鳴らす音だけが、鳴り響いていた。
「やけに静かね」
 天鈿女が、不審そうに呟く。
「誰もいない」
 階段を降りてすぐに右に折れて、アマトキは手前の教室を覗いていた。教室内はガランとしており、人の気配を全く感じない。
「こっちも誰もいないね」
 天鈿女は左側に折れ、『音楽準備室』、『音楽室』と書かれた室内を確認していた。
「どうするの?」
「とりあえず、もう一個下に降りてみよう」
 天鈿女の問いに、アマトキはそう答えた。
 階段を降りて行く。
 下の階へと降りると、上の階と趣が異なっていた。右側には、上の階と同じく教室が続いていたが、左側はすぐに突き当たって、また二手に分かれ、右に折れた先はまた二手に分かれていた。
「職員室」
 天鈿女が、左側の突きあたりの部屋の標識を読み上げる。
 長い廊下。職員室の横に廊下があり、その廊下を挟んだ隣は、事務室と書いてある。事務室の前には、ピンク色の電話が置いてあり、その向こう側は外へと続いていた。反対側は、ずっと廊下が続いており、その果てに階段が見えていた。
「やっぱり教室には誰もいないね」
「まぁ、普通に考えれば、あのタタリ神の異界なんだから、人間がいるわけがないんだけど。それにしても、何もいないのはさすがに不自然というか、不気味というか」
「向こうもこっちに気付いているよね?」
「異界に入った時点でばれているに決まっているじゃない」
 天鈿女は、周りを警戒している。
 今の所変化はない。不自然な無音状態が続いているだけであった。
「もう一個下に降りてみる……?」
 そこまでアマトキが言葉にした時、いきなり職員室の扉、アマトキたちの傍の扉ではなく、もう一つ奥の扉が、ガラガラガラ! とけたたましい音をたてて開いた。
「な、何事?!」
「うきゃぁ!」
 目を瞬(しばた)かせるアマトキと、飛び跳ねて驚く天鈿女。
 突然開いた職員室の扉の向こう側から、何かが廊下に転がって来た。ポヨンと一回跳ねて、コロコロと転がり、廊下の反対側にぶつかって跳ね返って、ほぼ廊下の真ん中で止まった。
 大きさは、両手で包める程度であろうか。コロコロと丸い物体は、モフモフしている蜘蛛の姿をしたヌイグルミであった。気持ち悪い姿ではなく、可愛くデフォルメされており、これならば子供に上げても泣いたりはしないだろう。
「蜘蛛の……ヌイグルミ?」
 訝(いぶか)しむ天鈿女。
「絶対ヤバイ。あれヤバイ」
 露骨に警戒するアマトキ。
 次の瞬間、モコリと蜘蛛のヌイグルミの一部が脈動した。
 モコリモコリモコリモコリ……。
 脈動する度に、大きくなっていく。モリモリ大きくなっていく。
「ヤバイヤバイヤバイ……これはヤバイ!」
 大きくなるにしたがって、不気味になっていく。
 廊下との間に隙間がなくなる程大きくなった蜘蛛のヌイグルミ――いや、元ヌイグルミは、不気味な真っ赤な八つの目をギラギラと輝かせ、大きな口をグヴァーと広げて見せた。



 わ、私はアマトキ。
 美味しくないよ!

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