堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第七話 『慶介消失』

<<   作成日時 : 2014/06/19 10:40   >>

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第六話 『天鈿女登場』
1話〜6話





   第七話『慶介消失』



 天鈿女が帰った後、慶介とアマトキは一階の居間へと移動し、朝食を摂っていた。
 時刻は、八時少し前。
 朝食は、買い置きをしておいたアンパンとジャムパン。
 アマトキが凄く迷っていたので、アンパンとジャムパンを半分にして、お手製の二色パンとした。
 録画しておいたアニメを一緒に見ながらの食事。
 結局、慶介は色々な疑問を心の中に閉じ込めた。
 疑問を放つという事は、その人に興味を持つことに他ならない。慶介は踏み込んでいいものか分からず、結果アマトキが何も話さなければ放置しておこう――そうしたのであった。
 そもそも、わけが分からない事が多い。色々と考えても息苦しいだけである。それよりも、慶介には気になっている事があった。
 わけが分からない事よりも、ずっと大切で、切実な問題。
「アマトキ」
「ん?」
 アニメのEDが流れ始めた所で、慶介が話題を切り出した。
「その髪、切らない?」
 そう、髪である。
 自力での行動を妨げているこの髪のせいで、一度座ったら最後、自分では立つことが出来ない。
 五体満足で健康そのものであるというのに、介護が必要とはこれいかに。それに女の子を抱えるのは、緊張して仕方なかった。
「あぁ〜……そうだね。邪魔だもんね」
 自分の髪を掬いながら、アマトキが答える。
 特別こだわりはないようだ。
「じゃ、今日は髪を切りに行こう。いつも行っている床屋だけど、そこの奥さんが女性の髪も切ってくれるみたいなんだ。今から電話してみるけど、いい?」
「慶介が大丈夫なら、私はいつでも良いぞ」
「じゃ、電話してみるよ」
 携帯電話を自分の部屋に取りに戻る。
 テーブルの上に置いてあった携帯電話を手に取り、続いて財布を探して、財布から床屋のポイントカードを取り出す。そこに電話番号が書いてあるのだ。
 さて電話を掛けよう――そんな折であった。
 カーテンを全開にしており部屋も南東側であるため、燦々と陽光が差し込んでいた室内が急に暗くなった。
 暗くなったとはいえ、真っ暗というわけではない。カーテンを閉めた昼間の室内、その程度の明るさ。
 不思議に思い窓を見た慶介は、窓に張り付いている『それ』を見て、言葉を失った。そして、慶介は次の瞬間、部屋から忽然と姿を消した。
 持っていた携帯が床に敷いてあった絨毯の上に落ち、床屋の名刺はひらりと舞って、掛布団の上に落ちた。
 一階で慶介が戻って来るのを、朝のニュースを見ながら待っていたアマトキは、慶介が消えた瞬間、異質な力を感じていた。
 表情を強張らせて天井を見上げる。
 丁度、この上が慶介の部屋であった。
「異界の扉が開いた? 慶介!」
 立ち上がろうとしたが、髪を踏んづけてしまって、横転してしまう。
「アイタタタッ! もうやだ、この髪」
 痛いやら、悲しいやら、腹立たしいやら。
 横になってしまったら、事態はますます悪くなる。どこを向いても、どう動いても、髪が邪魔でどうしようもないからだ。
 出来る事と言えば、地面を這うぐらいである。
 真上から見ると、髪の毛の束が床をもそもそ動いているようで、非常に不気味。
 不気味であろうが、本人は必死である。しかし、階段のある玄関に辿り着いた所で、そもそも体力も筋力もない彼女は、力尽きてしまった。
「うぅ……! うぅ……!」
 自分の不甲斐なさに、涙が溢れ出た。


 アマトキは、失意のどん底にいた。
 彼女は今まで、唯々諾々と言われた通りに生きてきた。それに疑問を持つようになったのは、現世を去った後である。
 少しは自分で考えて、自分で行動して、それから自分らしさを見つけたい。それだというのに、満足に動く事も出来ない。そんな様が、あまりにも腹立たしかった。
 玄関で行き倒れ状態になってから、三時間ほどが経過した。
 がちゃりと音がして、玄関が開く。アマトキは、救いを求めるように視線を送った先に立っていたのは、目を丸くしている天鈿女だった。
「なにしているの?」
「あ、天鈿女……」
 一端は落ち込んだアマトキであったが、すぐさま両目から涙が溢れだした。
「もう、この際ならアンタでもいいや。助けてよ!」
「若干、引っかかるいい方ね」
「どうしようもないんだよ〜!」
 天鈿女は、しばらく泣きじゃくるアマトキを見下ろしていた。
 色々な葛藤の後、天鈿女は大きな溜息を吐いた。結局彼女は、非常に徹する事なんかできなかったのである。
「まったく。何があったのよ。話してみなさい。その前に、体を起こしたら?」
「この様を見ろ! 情けない事に、もうからまって動けないのだ!」
 じたばたともがくアマトキ。情けないと言いつつも、偉そうなのは最早性分なのだろうか。
「なんてこと……自分の髪にからまって動けないなんて、そんなのアニメや漫画でも見たことないわよ」
「元々、自分で動く事なんてなかったんだい! 悪いのは私じゃない! 私をこんな風にした、周りの連中だ!」
「そう、さすがにそれは同情するわ。さてと、どうしようかしら」
 助けようにも、一体どこから手を付けていいのか。まるで、絡まったパソコンの配線のようである。
「髪は切っていい! この際だから、バッサリと切っていい!」
「それにはちょっと抵抗があるけど……実際、どうしようもないか。後で、ちゃんと美容室に行って整えてもらいなさいよ」
「うぅ、本来なら今から髪を切りに行く所だったんだ」
 天鈿女は、どこからともなく鋏を取り出した。
「動かないでよ。髪を切るのなんて、久しぶりなんだから」
 あれこれと格闘する事、三十分程度。
 アマトキの髪は、肩にかかる程度の長さを残すのみとなった。
 髪から解放されたアマトキは、今は自力で起き上がり床に座っている。その後ろで、天鈿女が雑に切りそろえた髪を、櫛で梳きながら綺麗に揃える作業をしていた。
 すぐに行動に移そうとしたアマトキであったが、天鈿女に事情を話す方が先、ということになり、話をする間に髪を整える事となって今に至っている。
「そう、そんなことになってしまったのね」
 一通り話を聞き終えた天鈿女は、そう言った。
「隠していても仕方ないから話すけど、私、ここに巣食っているタタリ神と交渉して、ここにいるのよ」
「敵対しているはずのお前が、やすやすと入って来ていたから、そんなことだろうと思っていたよ」
「条件は、あなたをこの家から排除する事。それに私は失敗した。だから、実力行使に出たんでしょうね」
「目覚めたばかりだというのに、もう、なんでこうも色々とあるんだ」
「陳腐な言い方だけど、きっとそれが運命という奴よ。さて、こんなもんかな」
 アマトキの髪は、小奇麗に揃えられた。肩にかかる程度の髪は、少しだけ短くなって今は、肩に届かない、首筋付近までの長さとなった。
 そして周りは、髪だらけである。
「これ、後で片づけてね。正直、うんざりする光景」
 天鈿女は、散らかっている髪を指差した。
「うむ、後で何とかする。それよりも今は慶介だ!」
「ちょっと待ちなさい」
 二階に上がろうとしたアマトキを、天鈿女はすぐに呼び止めた。
「なんだ?」
「あなた一人で何とか出来るの? 私、帰ってもいいの?」
「……う、うぬぅ」
 アマトキは、言葉を詰まらせた。
 天鈿女は、大きな溜息を再び吐く事となった。
「力がないあなたに、異界へのゲートを開く事は出来ないでしょ。私がやってあげる」
「なに? 気持ち悪い」
 アマトキは、心の底からの思いを隠しきれなかった。
「そう、なら私帰ろうかな」
「ちょ、ちょっと待って! い、今のは冗談だ。その、アメリカンっぽいジョーク、みたいな?」
「何わけの分からない事を言っているのよ。目覚めたばかりなのに、妙な言葉を使うと恥の上塗りよ。こちらもね、ただで協力してやろう、というつもりはないんでご心配なく」
「やっぱりか。だが、八百万には入らないぞ」
「八百万に入ってくれるのが一番だけど、そこは妥協してあげる。その代わり、あなたを監視するために私もここで一緒に住むから」
「なっ!」
「それを受け入れてくれたら、手伝ってあげる」
「むむっ……」
 アマトキは、押し黙ってしまった。しかし、アマトキの返答を悠長に待つつもりなど、天鈿女にはなかった。
「考えてどうするのよ。どうせ、馬鹿なんだから分からないでしょ?」
「馬鹿じゃないもん!」
「今更何言っているんだか。こうやって時間を費やしている間に、藤木慶介の身に危険が迫っているかもしれないのよ」
 そうは言ったが、天鈿女は微塵もそんな事は思っていなかった。保護する目的で慶介を現世から異世界へと引っ張って行った。
 真相は、そんな所である。
 ならば慶介は、慌てなくても危害を加えられることはない。
 それでもそう言っておけば、アマトキが慌てるのである。
「良く聞きなさい。あなたにとって、今、しなければならない事は何? それだけよ」
「うにゅ〜、わ、分かった。私は認める。後は、慶介がどういうかは、知らないからな!」
「それでいい。なら、契約成立。反故にしたら、殴るからね」
「殴ったら、殴り返す」
 アマトキは、自信満々でそう返した。


 アマトキと天鈿女は、二人揃って慶介の部屋に踏み込んだ。
 今は太陽が中天に向かっているため、南側の窓から陽光が注いでいる。室内は近くに鉄道もなければ、大きな道路もないため、鳥の囀りが聞こえてくる程度の静けさであった。
「これが慶介君の部屋か」
「あんまりジロジロ見たら失礼だろう」
 部屋を見渡している天鈿女を、意外な事にアマトキが諌めた。
「それに、早く異界の扉を開けてくれ」
「分かっている。じゃ、ちょっくら変身っと」
 某変身ヒーローのようなポーズを取った天鈿女。
 スーツが、赤を基本とした巫女装束のような衣装へと変化する。ただ、普通の巫女装束に比べると露出が多い。
「エロイ」
「言わないで。私だって、恥ずかしいんだから」
 天鈿女は、少しだけ頬を朱色に染めながら返す。
「じゃ、ちゃちゃっとやりましょう」
 長い裾をばさっと翻し、天鈿女は両手を合わせた。
 柏手一つ。
 水に波紋が広がるように、柏手の音が部屋に余韻を残しながら響いた。
「ひふみよ、いむなや、こともちろらね、しきる、ゆゐつわぬ、そをたはくめか、うおゑに、さりへて、のます、あせえほれけ」
 天鈿女の一言一言が響き、その度に彼女の目の前の空間に、波紋が現れる。それらは幾重にも重なりあい、最後の言葉を放つと同時に一つの円に収束する。その円は最初は波紋の縁でしかなかったが、下から右回りに注連縄へと姿を変えていく。
 空中に浮かぶ、人一人が優に通れる注連縄によって区切られた円がこうして完成した。
「よし、こんなもんでしょう」
「突撃ぃ!!」
「あっ、待ちなさい!」
 止める暇もなく、アマトキが注連縄の中へと入って行った。焦る気持ちも分かるが、もう少し考えて動いてほしいものだ、天鈿女はそんな風に思った。
「しょうがない。私も行きますか」
 天鈿女も、やれやれといった様子で、アマトキの後を追いかけた。




 私は、アマトキ。
 慶介、必ず助けるから!





 第八話へ続く

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