堕天王の逝く道

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zoom RSS 福岡県地元小説『あまとき』 第五話『動く土偶』

<<   作成日時 : 2014/04/24 19:49   >>

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 黒くて黒くて、真っ黒で。彼女は、そんな姿見だった。それなのに、目の色だけが綺麗なルビーのような赤色で。そんな瞳を細めて、彼女は笑う。
「慶介君」
 鈴の鳴るような綺麗な声。
 どうして、忘れていたのだろうか。
 彼女の事を。
 ずっと一緒に……。
 一緒に?
 誰と?
 あぁ……もう何も分からない。



 慶介は、誰かを求めるように手を伸ばしている事に気付いた。
 夢――。
 とても大切な人が、夢に出て来ていたようなそんな気がしていた。
 ただ、目が覚めてしまえば、もう何も分からない。心に、モヤモヤとした残滓だけを残すのみである。
「なんだか、すっきりしないなぁ」
 朝の六時を少し回った時間。
 慶介は、ベッドの上で髪をポリポリと掻く。
 二度寝をするか、それとも――。
「アマトキ」
 そこで思い出す。
 昨日、変な女の子と出会った。
 自称『絶対にして唯一の神』。
 最近流行の中二病という奴だろうか。
 今にして思えば、それもまた夢だったのかもしれない。
「夢であった方がいい気もするけど、あんな綺麗な子が家にやって来たなんて、これを勝ち組だと言わずして、何を勝ち組という。いや、しかしあの子が家出少女だった場合、もう前科待ったなしという状態じゃないのか? あっ、なんで警察に連絡しなかったんだろうか。いやいや、警察に連絡をしたらしたで、問答無用で未成年者略取で前科決定なんじゃないだろうか? いささか勿体ない気もするが、面倒なので昨日の事は、やっぱり夢であった方がいい気もしてきたなぁ」
 扉へと目をやる。
 昔、母親が使っていた寝室が、廊下を挟んだ向こう側にある。アマトキが夢でなければ、彼女はそこに寝ているはずだ。
 慶介は、二度寝を諦めた。
 アマトキが、夢かそうではないか。それを確認しないと、居ても立っても居られない。
 そんな折であった。
『にゃぁ〜〜〜! なんか出たぁ!!』
 猫の鳴き声――ではないようだ。後半が、日本語である。
 アマトキは、夢でもなんでもなく、現実に居る。
 それは分かったが、朝から何事か。ゴキブリでも出たのか。
「アマトキ? どうした?」
 部屋を出て、廊下を三歩進んで、アマトキの部屋の前に。
 引き戸は閉じていたので、扉越しに声をかけてみた。
 しかし、まるで反応がない。
「アマトキ、入るぞ?」
 引き戸に手をあてて、首を傾げる。
 全く動かない。柱に張り付いているのか? そう思えるほど、動かない。
 昔の地震の影響で、家自体が少し歪んではいるものの、ここまで動かないなんてことは、今までなかった。
「ど、どうなっているんだ?」
 一歩下がって、改めて引き戸を見る。
 どう見ても、いつもの引き戸だ。いつもと違うのは、開かない、ということだけ。
 先程聞こえてきた、アマトキの声も今は全く聞こえない。それが逆に不気味だった。
 どうしたものか。
 そう悩んでいると――。
「少年」
 と、声が聞こえてきた。
 女の子の声であるが、聞いたことのない声である。
 周りを見渡してみるが、誰もいない。
 遂に幻聴が聞こえ始めたのか? そんな事を思いつつ小首を傾げていると、また声が聞こえてきた。
「少年、下だ」
 下と言われて、階下を見た。
 慶介が立っていた場所は、丁度階段の傍。階段は直線のため、階下の玄関口まで見える。
 そこにいた。確かにいた。
 女の子じゃない。
「ど、土偶?」
 人型の土製品。その見た目は、某国民的アニメの劇場版に出てくるため、割と見慣れた印象がある。いわゆる、遮光器土偶と呼ばれる土偶だ。普段、メディアで一番見る土偶、と言っていいだろう。
「土偶じゃない! あっ、今は土偶か。でも、土偶じゃない!」
 土を焼いて出来ているはずの土偶が、あろうことか両手をピコピコと動かしている。その様は、とても愛くるしいが、どこに関節が存在するのか、気になる所である。そもそも土偶に、あんな伸縮性があるはずがない。
 さらに、声はどこから出ているのだろうか。
 口はあるが、手と違って全く動いていない。
「遮光器土偶?」
「誰が遮光器土偶か!」
 物凄く怒られた。
「とにかく、表に出ろ」
 土偶はトテトテと歩き、慶介の視界から消えていった。
 土偶が歩く。これまた、不可思議で仕方がない。
 関節がないので、右、左、と交互に傾きながら進んでいる。
「幻聴に続き、幻視か?」
 首を傾げつつ、一階へ。
 土偶の姿はなかった。玄関には当然段差があるのだが、飛び降りたのだろうか。落下の衝撃に耐えられるほど、遮光器土偶が固いとは思えない。
 とりあえず言われるがまま、靴を履いて、外へと出ようとしたが――。
「ん? あれ?」
 扉が開かない。
 鍵がかかっているのか?
 否。
 隙間から見えるはずのデッドボルトが見えない。すなわち、二つあるカギは、どちらも開いていた。
 それだというのに、押しても引いてもまるで動く気配がなかった。
「さっきからどうなっているんだよ」
 慶介は、困惑しきっていた。
 引き戸は開かない。
 玄関の扉も開かない。
 土偶は歩くし、喋る。
 これだけの要素があって、困惑しないわけがない。
 扉の前で佇んでいると、扉をすり抜けるようにして、先程の土偶が再び姿を現した。
 扉に穴が開いているわけではない。
 まるで幽霊のように、物質を透過していた。
 地面を歩いていたことから、物質として存在しているはずなのに、すり抜けるとはどういう事か。
「しまった。結界が張ってあったんだ」
「結界?」
 慶介の言葉には、若干の嘲りが混じっていた。
 歩く土偶に、結界に、今まで存在していた現実はどこに行ってしまったのか。
「そう、この家に憑いている怨霊が悪さをしている」
 今度は、怨霊である。
 慶介は、頭を抱えた。
 何から受け入れ、何を考えなければならいのか。
 そこで慶介は、今優先すべき事が何であるのか、それに気づく。
「そういえば、君はどうやって出入りをしているんだ?」
 扉が開かない。
 これが現在直面している最大の問題である。
 土偶が歩いて喋ろうが、怨霊が結界を張っていようが、今は考える事ではない。
「私の力でも結界に小さな綻びを作るのが精一杯だったから、こうやって依代を使って、出入りしているだけ」
 わけが分からない。
 慶介は、どっと疲れが出るのを感じた。
「それもそろそろやばそう。少年、とりあえずこれをやろう。手を出しなさい」
 言われたまま右手を差し出すと、そこにチャリンと十円玉と五円玉が一枚ずつ現れた。相変わらず、どこから出てきたのか、全く分からない。
「家の外の結界はね……ん、細かい事は話している時間がなさそう。とにかく、結界はね、外にいるものを弾くんだよ。そして、家の中にいる人間を守るんだよ。つまりね、家主が望めばいいんだよ」
 土偶にひびが入っていく。
「じゃ、またね」
 次の瞬間、土偶は砕け散ってしまった。
 砕けた土偶の欠片は、土に溶け込むようにして消えていった。まるで最初から何もなかったように。
 しかし、慶介の右手には、十円玉と五円玉が残されている。
 摩訶不思議な事ばかりであるが、今、感じる事が出来る現実はそれだけであった。
「望めばいいって……」
 試しに玄関の取っ手を持ってみる。
「開けゴマ! とか?」
 唐突に、ガチャンという音と共に、扉が開いた。
 これには、慶介もびっくり。
 同じように願えば、アマトキの部屋にも入れるのだろうか。
 慶介は、十円玉と五円玉を握り締め、玄関から二階を見上げた。
 試してみる価値は、十分にある。



 私は、アマトキだよ。
 なぜに土偶?
 私の出番は、次だぞ!



 END

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