堕天王の逝く道

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zoom RSS 緋色の空を!

<<   作成日時 : 2012/06/15 09:18   >>

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異世界ファンタジーシリーズとしては、『群青色の空へ!』、『琥珀色の思い』、『英雄放浪記』、『MeIderuEren』に続いての、5作目です。そして、『群青色の空へ!』の前日譚となります。

あらすじ
かつて、その国には『ドラゴンオブドラコン』と謳われる、竜騎士が存在していた。
群雄割拠だったその国は、北に存在する魔法帝国グレオンの脅威に立ち向かうため、一つの国になろうとしていた。結果、お互いにつぶし合い、残ったのは、ヘレミアとナウセスという国だった。ナウセスは、密かにグレオンと手を組み、その技術と魔導力を投入し、ヘレミアを圧倒した。追いつめられたヘレミアは、決して戦場へと投入しなかった、生活の要でありパートナーと呼べる、『飛龍』の投入を決定する。
後に『東西戦争』と呼ばれたこの戦争の末期、飛龍を駆り多大な戦果を挙げ、『ドラゴンオブドラゴン』と呼ばれた少女、ミナス=フォロン。地上の業火によって緋色に染められた空を飛龍と共に駆け抜けた、輝かしい英雄譚の裏に隠された、ミナスの慟哭の物語。
後半、ちょっと暗め。




   緋色の空を!

「ミナス=フォロン様ですね?! 私、ずっとお慕いしておりました!」
 笑顔でそう口にした少女がいた。名前は、ナナミ=クールスト。ミナスが隊長を務めていた『アサルトドラグーン』に所属していた竜騎士の一人である。
 目の前に、ぶっきらぼうな顔でテーブルに突っ伏している少女がいる。彼女の名は、アオイ=クールスト。先日、空から落っこちて来た見習いの竜騎士だ。今は、相棒である飛龍と喧嘩して、空を飛べなくなっている。
 彼女を助けたのは、ナナミと同じクールスト家の人間だから――というわけではない。少しはその事も加味したが、それよりも大切だったのは、アオイ自身が秘めている可能性に夢を重ね、己が命が尽きる前に自分が感じたものを、彼女に伝えたかったからだ。
 今は戦争が終わり、平穏な日々が続いている。ミナスは、無くしてしまった左腕を覆う袖を引っ張った。無くしてしまったのは、左腕だけではない。戦争で、多くの物を失った。だからこそ、伝えなければならない事がある。
 竜騎士とは――飛龍と共に生きるという事はどういうことか――伝え、そしてアオイ自身に気付いてほしい。
 群青色の空を飛龍と共に駆ける事が出来る――その素晴らしさを――。

 十五年前――。
「私は、ミナス=フォロン中佐です。この度、アサルトドラグーンの隊長に任命されました。若輩者ではありますが、己の力の限りを出し、皆さんと共に作戦を遂行してきたいと思っております」
 ミナスは、集まった二十名の竜騎士にそう挨拶した。
 元々七つに分かれていた国が、北の国境に面している魔法帝国グレオンの脅威に立ち向かうため、一つの国になることが提案された。最終的には、ヘレミアとナウセスという二つの国が残り、そして戦争になった。魔法帝国グレオンの脅威を考えるならば、戦争は最大の愚行であったはずであるが、ナウセスがヘレミアの提案を蹴り、一方的な言いがかりをつけて宣戦布告をしてきた。こうして、後に東西戦争と呼ばれる十四ヶ月に渡る戦争が始まった。
 本来、それほど軍事力には差がないはずだった二つの国。しかし開戦後間もなく、圧倒的な軍事力でナウセスがヘレミアを蹂躙し始めた。さすがにヘレミアも気付いた。ナウセスは、グレオンと手を結んだ――と。それでもヘレミアは、なんとか粘りに粘り続けた。しかし、状況は悪くなる一方。このままでは、ナウセスが提案する一方的な提案を呑まざるを得なくなる。それはすなわち、グレオンの属国になるという、なんのために七つの領土を一つにしようと頑張って来たのか分からなくなってしまう、最悪なシナリオだった。
 ヘレミアは、飛龍を戦争に投入することを決定する。ヘレミアは、山岳国。元々住んでいた飛龍と契約し、彼らと共に生きる事を選んできた。飛龍は良き隣人であり、家族であり、パートナー。そんな飛龍を、人の戦争に巻き込むことはあってはならないという掟が存在していた。ヘレミアは戦況を引っ繰り返し、本来あるべき統合を目指して、その掟を遂に破った。その結果、たった一隊だけ組織された部隊、それがミナスが隊長を務める『アサルトドラグーン』であった。

 夜明け前。ミナスを先頭にして、山の頂上をならして作られた基地から、二十一騎の竜騎士が、山から吹き下ろしてくる風に乗り飛び立っていく。目指すは、ナウセスの首都アイリンセレル。距離は、350km。行きは、四時間。帰りは、六時間。合わせて十時間の強行軍。休憩はない。敵首都まで飛び、搭載している爆弾を投下し、そのまま帰投しなければならない。ナウセス側が飛龍への対抗策を確立させる前に、首都も空襲できる、勝つ見込みがないという事を、徹底的に知らしめるための作戦だった。
 地平線の彼方で太陽が輝いているのを横目に見ながら、ミナス達はまっすぐに敵国の首都を目指した。
 上空1500mであること、飛龍が投入されて間もなく、空を飛んでいても鳥だと勘違いされている事、この二つの要因のおかげで、ミナスたちは敵に発見されることもなく、かつ一騎も欠けることなく敵国の首都へと辿り着いた。
 元々長距離を飛ばない飛龍の体調を気遣いつつ、眼下に広がる敵国の首都を見下ろす。朝の市場が終わり、昼の仕事に向けて準備をしている人たちが、往来しているのが分かる。
 飛龍での空襲は、これで三度目。国境付近の町をターゲットに、実戦データを得るために空襲した。ミナスに迷いはない。戦争を終わらせるという強い意志が、彼女を突き動かしていた。
 すぐ左隣を飛ぶ、竜騎士――ナナミ=クールストに、手を使って投下のサインを送る。ナナミは飛龍の上に立ち上がり、後続に向かって投下の指示を出した。ミナスは飛龍の腹を蹴り、出来るだけまっすぐぶれないように飛ぶように促す。飛龍に括り付けられていた紐をナイフで切る。爆弾が自重に耐えられなくなり、一つ、一つ、落下を始めた。
 火薬式の爆弾が炸裂していく。火災が発生し、延焼、空を緋色に染め上げる。黒煙で眼下の町は見えなくなっていくが、関係なく爆弾を投下していく。
 異常が発生したのは、爆弾を投下し始めて二十分を過ぎた頃であった。ほぼ爆弾を落とし尽くし、後は帰投するだけ――という時になって、ミナスは下から昇ってくる眩い光の束を発見した。それが地上から放たれた何かしらの攻撃魔法だと気付いた時には、その眩い光は近くを過ぎ去っていた。
「攻撃?!」
 慌てて飛龍の手綱を握る。刹那、飛龍の鳴き声が聞こえてきた。左を見ると、ナナミの乗る飛龍が、翼を吹き飛ばされて落下していた。
「ナナミィィィィィィイィィ!!」
 ミナスの声が、虚しく空へと溶け込んでいく。助けに行くのは間に合わない。それにも関わらず感情に流されて助けに行けば、部隊が全滅しかねない。自分を慕っているとにこやかに笑って語っていたナナミが落ちていく姿から目を逸らし、ミナスは飛龍の上に立ち上がって、サインを送った。
『全騎帰投セヨ。我、コレヨリ突貫ス』
 戸惑う他の竜騎士にもう一度同じサインを送った後、ミナスは飛龍に跨り、手綱を握った。
 ナナミの敵(かたき)を討つわけではない。現段階で、飛龍に対抗する術(すべ)があることが問題なのだ。
 ミナスは、先程の攻撃から『広域戦術魔法』の一つではないかと推測していた。本来魔法は、単体から複数人への攻撃に用いられる。それを巨大な魔法陣を敷き、幾人もの魔導師で運用することで、魔法の規模自体を巨大化させたものが、広域戦術魔法である。
 本来、ナウセスには高度な広域戦術魔法を運用するノウハウが存在しない。それがこうやって可能になっているという事は、魔法の本場である魔法帝国グレオンの魔導師が、今ここにいるという事であろう。
 飛龍を撃ち落とした実績なんてものを残したまま撤退しては、作戦の意味がなくなってしまう。ここで、飛龍を落とした存在を抹消しておかなければ、戦争は終わらないのだ。
 ミナスは高度を落として、広域戦術魔法に使われた魔法陣を探す。高度を下げる事は諸刃の剣であったが、そんな事は言っていられない。速やかに発見し破壊しなければ、飛龍も長くは飛べないのである。
 少しの時間旋回している内に、大きな広場を見つけた。魔法陣は、魔力を充填している間は、淡く光ってしまう。それを隠す技術は存在しない。発見した広場の中央で、今まさに淡く光る魔法陣の姿を認めた。ミナスが発見したと同時に、魔法陣の上にいる魔導師たちが、ミナスを指さし始める。その中に、全く動じない男がいた。魔法陣の中央に立ち、ミナスの姿を視線で追っている。白い外套を身に纏った男。魔法陣の中央にいることから、彼がグレオンから来た魔導師なのだろう。
 ミナスは残っていた爆弾を二つ手に取り、一度魔法陣の傍から離れた。高い所から落とせば、空中で誘爆させられてしまう可能性がある。可能な限り高速で接近し、爆弾を投下して、離脱するしかない。
 建物の高さがあるため、高さを調整するのがかなり難しい。片腕で手綱を繰り、両足で飛龍の体を叩きつつ、コミュニケーションを取る。死角となる所は、すでに見当をつけていた。
 他の建物よりも背の高い時計塔の裏側。その横を走る、広場までの細い路地。ギリギリまで時計塔に近づき、ミナスは上空に向かって爆弾を放り投げた。途端、飛龍の体を逆方向に傾け、狭い路地に潜り込む。翼を広げたままではまっすぐに飛べないため、体を斜めにして飛ぶ。広場に繋がっている道に合流するため、ギリギリの速度を維持する。速度を落とし過ぎれば、加速に時間がかかる。早すぎれば曲がりきれない。たった一度しかないチャンス。今までの全ての経験と技術を総動員して、ミナスは手綱を繰る。
 ミナスと飛龍が広場に繋がる道に姿を現す。ミナスは内心焦った。上空に投げておいた爆弾が炸裂してくれない。予定では、時計塔の根元付近に落下して爆発し、それに気を取られている内に接近するつもりであった。遅れて、爆発音が聞こえた。ほんの僅かに遅かった。しかし、引き返せない。遠心力に耐えつつ、手綱を命一杯引っ張る。壁が近づいてくる。飛龍も精一杯翼を羽ばたかせる。
 曲れ――曲れ――曲れ!
 引き延ばされた時の中で願い続ける。次の瞬間、ぱっと視界が開けた。飛龍は弧を描きつつ、そのまま広場へと突入していた。少しでも路地が長ければ、ぶつかっていた所であった。出来れば直線距離が望ましかったのだが、綺麗に曲がりきれなかったのだから仕方がない。
 突然現れたミナスの姿を認めて、魔導師たちが慌てているのが見て取れた。しかし、やはり中央にいるグレオンの魔導師は慌てていない。その姿があまりにも無気味であったが、ミナスは迷わず魔法陣の真上を通過し、一個残しておいた爆弾を投下した。
 誘爆させても意味がない距離。爆弾は魔法陣に炸裂して、激しい土煙を巻き上げた。ミナスは飛龍の高度を上げつつ、着弾確認を行っていたが――慌てて手綱を切った。左横をかすめて行ったのは、眩い光だった。
「くっ……!」
 飛龍の体勢を整えるため、手綱を引っ張ろうとした時、ミナスは違和感を覚えた。上手く引けない――その時になって、左腕が肘より少し上の部分からぽっかりとない事に気付いた。
「あっ……あーーーーーーーー!!」
 体を丸めて、声を上げた。飛龍は、ミナスの異常に気付いて自己判断で体勢を整えた。ミナスは、不思議と痛みを感じていなかった。痛覚がオーバーフローしているのだろう。ミナスを苦しめたのは、痛覚よりも喪失の恐怖であった。
 ミナスは体を丸め、表情を歪めつつも前を見る。そして右手で飛龍を叩き、足で意思を伝える。飛龍が鳴いた。『本気か?』、そう問うたのだろう。ミナスは、『反転しろ』と伝えたからだ。
「ゴメン……でも、アイツを生かしておけない。ザベル……お願い……!」
 飛龍の名を呼んで懇願する。飛龍の背後から、再び眩い光が迫って来ていた。飛龍はそれを自己判断で避け、そして身をくねらせながら、進路を魔法陣に向けた。ミナスの意思を尊重したのだ。
 爆弾で魔法陣自体は壊れている。ただ、グレオンの魔導師の周りに三体の遺体と、満身創痍の三人の魔導師が立っていた。六人で結界を張りグレオンの魔導師を庇い、その間グレオンの魔導師は攻撃魔法を詠唱していたのだろう。相手側も、飛龍を撃墜することに必死である。
「……マジックブースト!」
 緊急用に持たされていた、魔力増幅の宝石を消費する。
「シルフウィンド!!」
 飛龍の前方に風の防御壁を全力で展開。
「ザベル……お願い!!」
 飛龍はその防御壁を展開したまま、グレオンの魔導師に向かって突貫していった。

「うっ……あっ……」
 グレオンの魔導師を轢殺することに成功したものの、ミナスも飛龍も限界以上の動きを長時間に渡って行っていたため、一度高度を取ろうとして失敗し、町中に墜落した。周りは炎に覆われており、空もその炎で緋色に染め上げられている。ミナスは左腕の残った部分を抱きつつ、空を見て、それから飛龍を探すため周りを見渡す。飛龍の姿はない。あてもなくミナスは一歩、一歩と歩みを進めた。
 目の前に、男の子の死体が転がっていた。倒れた建物に足を潰され、成す術もなく焼かれたようだ。苦しくてもがいたのだろう、石で舗装された道に幾重もの血の筋が走っていた。視線を他に移すと、他にもいくつも死体が転がっている。ミナスはぼんやりとその様を眺めていた。
 ここは地獄? 誰がこんな酷い事をしたの?
『全て、お前の所作だろう』
 そんな声が、自分の内から聞こえた。ミナスは、あらんかぎり瞳を見開いた。
「ザベル……? ねぇ、どこに行ったの? ねぇ……」
 ふらふらと歩いていると、崩れた建物に進行方向を塞がれた。崩れて積み重なった木材の下から、飛龍の尻尾が見えていた。ピクリとも動かない。
 ミナスは大地に両膝を付き、そしてあらん限りの声で、緋色の空に向かって吠えていた。

 ミナスは車椅子に座り、群青色の空を飛ぶ飛龍の姿を眼(まなこ)に映す。今は、見習いの竜騎士たちが競技大会のコースを駆け抜けている。先頭を飛んでいるのは、ミナスが竜騎士としての心得を教えた、アオイだ。
「見えますか? ミナス様の最初で……最後の教え子が、先頭を飛んでいます。美しい姿です。かつてのあなた様のお姿を見ているようであります」
 車椅子を押してくれている幼馴染が声をかけて来る。どこか、遠い世界の声に聞こえた。続いて聞こえて来たのは、幼馴染の声ではなかった。十五年振りに聞く、飛龍ザベルの鳴き声。
 気付くと、群青色の空をザベルと共に飛んでいた。両の腕でしっかりと手綱を握り、飛龍の腹を蹴る。その時、別の飛龍の寂しげな鳴き声が聞こえた。

 緋色の空を飛び、全てを失ったあの日。
 随分と遠回りして、ようやく見つけ出した希望。

 空はいつまでも青い。
 青くて美しい。
 優しく吹く風が、二人に祝福を囁く。

 どこまでも青い。
 ずっと青い。
 果てなく青い。

 二人は飛び続ける。
 きっと、ずっと――。

 例え命を失ってしまっていたとしても――風となり、二人は飛び続ける。

 それが、『竜使い』だからだ。

 END



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