堕天王の逝く道

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zoom RSS 幽世喫茶 散る散るハルサキ

<<   作成日時 : 2011/05/19 11:17   >>

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なんだかんだで9作目となります。
幽世喫茶は、もしかしたら今年中に終わらせる事が出来るかもしれません。
今の所、残り4話です。


幽世喫茶
山の中腹に店を構える、閑古鳥に愛された喫茶店、それが幽世喫茶。しかし、幽世喫茶では風変わりな珈琲が振舞われるということで、人間ではなく妖に有名であった。その風変わりな珈琲の名は、『幽世珈琲』。
この物語は、幽世喫茶のマスターである乙衣兎渡子と、幽世珈琲に誘われた人たちが織りなす、ちょっと不思議なお話です。


登場人物
乙衣兎渡子(おとぎぬととこ):幽世喫茶のマスター。不思議な指を持っており、その指が触れることでただの珈琲が幽世珈琲となる。基本、ダメ人間。

マイ:兎渡子の持ち物である、マイセンカップが化生――妖になった存在。いわゆる付喪神(つくもがみ)。ずぼらで、働かない兎渡子の代わりに、店を切り盛りしている。幽世喫茶の最後の砦。

春野蓮華:除霊屋に属する春野家の人間。兎渡子の幼馴染である。いつも男物のスーツを身に纏っている。気が強いが、泣き出すと手におえない。

幽世喫茶 1話〜6話 http://www5f.biglobe.ne.jp/~pfive/tyouhen/shortstrory.html(HTML)
幽世喫茶 4話〜8話 http://47762756.at.webry.info/theme/8535815472.html(ブログ)


今回のあらすじ
かつて鎮めた妖からの討伐依頼が舞い込む。兎渡子は、幽世珈琲の力を見出すため、その依頼を受けるが・・・。



 幽世喫茶
 散る散るハルサキ

 どんよりと曇った夜。いつもよりも闇が深いそんな日。季節的に、夏の虫が鳴いていていいものだが、そこは恐ろしく静かだった。大地を踏みしめる音が、異様に耳につく。
 大きな桜の木が一本立っている。今は夏であるが、ほとんど葉がない。寂しさを感じる、見るからに枯れ木だ。その枯れ木の下に、着物を着た少女が座っていた。髪の色は灰色。まだらにピンク色の髪が混ざっている。顔を伏せており、その伏せた顔に髪がかかっているため、表情は見えなかった。
 足音を鳴らしていたのは、男物のスーツを着た女性。名は、春野蓮華(れんげ)。除霊屋と呼ばれる、妖(あやかし)を調整する組織に属している。彼女は、左手はポケットに突っ込み、右手は腰に携えた刀の柄に乗せていた。
 二メートルほどの間を空けて、蓮華は足を止めた。生ぬるい風が吹き、枯れ木の下に座っている少女の灰色の髪が、さらさらと揺れる。
「……見た顔だな」
 少し古臭い韻で語る少女。顔は伏せたままである。
「十年前、あなたを安定させた兎渡子(ととこ)と烏華(うか)さんの傍に、私もいた」
「あの時の子か。少し見ない間に、人はすぐに大きくなる」
 蓮華は、渋い顔で少女を見つめていた。言葉が消えて、五分程度。ただひたすら、蓮華は少女を見下ろしていた。かける言葉が見つからない、そんな様子であった。
「あまりの無様さに驚いているのだろう? 私も年を取り過ぎた。最早、己を律することも難しい。そなたは、名をなんと言う?」
「蓮華」
「蓮華よ、私の最後の願いを聞いてくれないか?」
 少女は、そこでようやく顔を上げた。くすんだ金色の瞳。焦げた頬。寂しげに微笑み、蓮華を見上げていた。

 日が暮れていく。窓から差し込む陽光がオレンジ色に染まり、細長く伸びている。ここは幽世(かくりよ)喫茶。山の中腹に店を構える、風変わりな喫茶店である。現在、客はカウンター席に座る蓮華のみ。カウンターの向こう側には、この店のマスターである乙衣(おとぎぬ)兎渡子の姿。彼女は、椅子に座って小説を読んでいる。もう一人、ウェイトレスをしている少女がいる。名前は、マイ。見た目は、メイド服を着た少女であるが、彼女は人ではない。兎渡子の持ち物であるマイセンカップが化生(けしょう)した、いわゆる付喪神(つくもがみ)だ。マイは、仕事もないので、窓から外の景色を眺めていた。
 蓮華はカウンターに向かい、顔を伏せている。彼女は、十五時ぐらいに店に来て、珈琲(こーひー)だけ頼み、現在十八時を回っているが、一言も喋らずこの状態を維持していた。
 静けさの中、店内にかけられたクラッシクの音楽だけが小さく響いている。そんな静けさの中に、本を閉じる音が加わった。兎渡子が、読んでいた小説を閉じたのだ。
「マイ、もう上がっていいよ」
 マイは、兎渡子の方へと顔を向ける。しばらく兎渡子の顔を見ていた彼女は、小さく会釈して、店の奥へと消えて行った。
 本を引き出しの中に仕舞い、蓮華の傍へ行くと、兎渡子はカウンターに背を預けた。
「また難しい顔。私に話があるんでしょ?」
 蓮華は答えない。顔も伏せたままである。
「いつも言っているけど、おれんは他人の悩みや痛みまで背負い過ぎ。正直、私はそんなおれんが嫌いだわ」
 おれんとは、蓮華の愛称である。声をかけても、顔を伏せたままで反応のない蓮華。兎渡子は、そんな蓮華をじっと見下ろしていたが、何もアクションを起こさないため、嘆息と共に視線を逸らした。
 それから十分程度はそうしていただろうか。窓から差し込むオレンジの光が、さらに伸び、店内に物寂しさの影を落とし始めていた。
「……今日は、兎渡子に頼みがあって来た」
 ようやく蓮華が口を開いた。少しだけ顔を上げた彼女の横顔は、いつもの彼女よりもずっと深刻で辛そうな顔だった。
「頼み?」
「本当は、こんな話をお前にはしたくないのだが」
「だから、私の痛みや苦しみまで背負うなって。余計なお世話」
「しょうがないだろう。お前、基本ヘタレなんだからさ」
「それは知っているけど、だからといって蓮華が渋い顔をしているのを見るのも辛いのよ」
「それは知らなかった」
「初めて言ったしね。そういうことだから、さっさと話しなさい」
 蓮華は大きなため息とともに、体を反り、髪をかき上げた。そうして、見下ろしていた兎渡子と視線を合わせた。
「ハルサキっていう妖のことを、覚えているか?」
「ハルサキって、十年前姉さんと調整した桜の木に宿る地霊のことよね?」
「そうだ。そのハルサキから、お前に討伐の依頼だ」
 そこで蓮華は一旦言葉を切った。体を元に戻し、今後は体ごと兎渡子の方に向いた。
「ハルサキ自身の討伐依頼だ」
 兎渡子は驚き、目を丸くした。

 次の日の夜。幽世喫茶から少し降りた細い道に、青色のコルトが停まっていた。蓮華の車である。兎渡子は窓をノックして、車に乗り込んだ。蓮華は、いつも通り男物のスーツを身に纏っていた。そんな蓮華は、兎渡子を見て眉根を細めた。
「兎渡子、バイオリンは?」
「もう弾かないって決めたの。代わりにこれ持って来たし」
 兎渡子は、水筒を見せる。
「またそれか。まぁ、兎渡子がそれでいいなら、もう何も言わないよ」
「随分と物わかりが良くなったのね」
「諦めたのさ」
 蓮華はそう言うと、アクセルを踏み込んで車を走らせた。
 山を降りて田舎の道を走り、少し大きな道に合流して、およそ四十分程度。住宅街の車がギリギリすれ違う事が出来る程度の幅の路肩に、蓮華は車を止めた。民家と民家の間の小さな空地。小さなゴミは付近の住民が片づけているのだろうが、大きなゴミまでは片づける気にはなれないのだろう。古いブラウン管のテレビやストーブ、自転車などが空地の端を占拠していた。そして、広間の一番奥には、すっかり老いさらばえた木が一本、裸一貫、突っ立っていた。
 先程まで少し冷たかった風が、急に不快な生ぬるい風へと変わる。相変わらず、生き物の音がしない。両側に民家が立っているにも関わらず、そこだけはどこか遠い世界を彷彿とさせるような、静かな世界だった。
 枯れ木の下には、灰色の髪の少女が座っている。くすんだ金色の瞳に、やってきた兎渡子と蓮華がそれぞれ映りこむ。
「約束を守ってくれたことに感謝する。大きくなったな」
 その言葉は、兎渡子に向けられていた。
「はい、ご無沙汰しております」
 兎渡子は、努めて冷静にそう答えた。ただ、その表情は無表情を装っているのが見え見えの、脆い印象を受けるものであった。
「息災……調子はどうだ? なんでも、喫茶店を始めたらしいな」
「繁盛はしていませんが、それなりに楽しんでいます」
「そうか。それは良い」
 少女は、屈託ない笑みを浮かべる。
「人は、健やかに生きるのが一番だ。笑顔が灯り続けることこそが、最上の幸福である。少し安心した。まだ、そなたは元気なのだな」
 兎渡子は、蓮華の方を見た。少女の言葉の真意を理解し、蓮華にそれが確かなものなのか確認しようとしているのだ。
「烏華さんのことは話してある」
 兎渡子は、それを聞いて小さく頷いた。それから彼女は、水筒のフタを開け、そこに珈琲を注いだ。珈琲独特の優しい香りが広がる。その香りは、この場の陰気な空気を少し中和しているような、そんな印象を抱かせた。
「私は、私が出来る事を模索しました。それが、この幽世珈琲です。飲んでもらえますか?」
 少女は、今にも折れてしまいそうなか細い手を伸ばし、兎渡子の手から珈琲を受け取った。黒い水面に己の姿が映りこみ、それを見て少女は自嘲する。
「そなたの力は、指に宿っていたのだったな」
 珈琲をためらうことなく、くいっと飲んだ。一気にあおったため、口角から珈琲が流れて、顎を伝い雫となる。そんな様を、兎渡子と蓮華はじっと見つめていた。
「これは……」
 そう呟いた刹那の事である。少女の手からフタが零れ落ちた。瞬く間に、著しい変化が起こり始める。
「あ……あ……あああああああああ!!」
 痙攣(けいれん)を起こし始めたかと思うと、剥き出しだった腕と手に、筋が走っていくのが見えた。その筋が指にまで到達すると、指の形が細くなり、そして尖り、曲る。顔にも筋が走り始め、少女は断続的に声を漏らし続けた。目を大きく開き、着物で覆われている肩や足、背中や腰の辺りが、波打つように揺れている。その様は、まさに異常。
「ハルサキ!」
 駆け寄ろうとした兎渡子。その肩を掴む蓮華。
「下がっていろ!」
 蓮華は力の限り兎渡子を引っ張り、後ろへと下げた。兎渡子は立っていられず、尻餅を付く。その直後、少女が両手を大地に叩きつけた。
 蓮華の足元から、大地を割り競りあがって来たのは、枯れ木だった。蓮華は刀を抜き、その枯れ木を両断する。
「蓮華……!」
 兎渡子にも名前を呼ぶのが精一杯だった。状態は、加速度的に悪化していき、すでに言葉を連ねる余裕なんてなかった。
 蓮華の二刀目。渾身の力を込めたそれを、少女に向かって左斜め上から振り下ろした。巻き上がる砂煙。その砂煙から、少女が弾かれたように飛び出てくる。少女の姿は、すでに変貌していた。着物を突き破り、体のあちらこちらから枯れ木が伸びている。灰色の髪も全て枯れ木。濁った金色の瞳は、泥のような灰色に染まっている。
「ガァーーーーーー!!」
 その声は、すでに人のそれではなかった。
「ハルサキ……その首をもらう!! 真っ向勝負!!」
 蓮華は刀を構えて、少女を追撃する。少女は、体中に生えた枯れ木を幾重にも伸ばして、そんな蓮華を串刺しにすべく動かす。兎渡子は、そんな二人の戦いを、困惑を抱きつつ見守る事しかできなかった。
「ヒトが憎い! ヒトが憎い! 殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロス!!」
 度重なる猛撃を、蓮華はことごとくその剛腕が操る刀で叩き折っていく。
「小手先の技が通ると思っているのか! 殺したければ、直接来い!!」
 そんな蓮華の声が聞こえたのか。少女だったモノは、両手に枯れ木を纏わせて、枯れ木で出来た片刃の刃を生み出す。その状態で正面。何の小細工もなく、最短距離、最高速度で突っ込んでくる。蓮華は、それを見て不敵に笑った。
 蓮華の方は、僅かな踏み込み。それは圧倒的に有利な一歩。少女だったモノが一気に間合いを詰め、己の間合いを確保したその刹那に、一歩、蓮華は踏み込んだのだ。どんな武器も、正しい間合いでなければ、最高の威力を出す事は出来ない。
 ほぼ零距離に近い間合い。顔と顔がぶつかるほどの距離。それが蓮華の生み出した間合い。蓮華の頭の方が少し高い位置にある。そう在るように、蓮華は計算して踏み込んでいた。この状況を作り出した以上、蓮華がすることは一つ。
 少し高い位置にある自分の頭を、相手の頭に叩きつけるだけ。
「うらぁ!!」
 少女の頭に、蓮華は思いっきり自分の額をぶつけた。そして、歯を食いしばりながら、ねじった体をさらに戻す動きに繋げる。同時に、刀を掬い上げるように振るった。煌めく粒子は、蓮華の霊力の結晶。それを纏った刀は、少女だったモノの胴体を捉え、跳ね返した。
 吹き飛ばされた少女だったモノは、壁にぶつかって止まった。その凄まじい勢いで、ブロックを積んだ壁に亀裂が入る。蓮華は、髪をかき上げて、頭を振っている。彼女とて、まったく痛くないわけがないし、頭をぶつければ眩暈(めまい)も起きるのである。
「殺したの?!」
 兎渡子が、そんな蓮華に走り寄る。
「討伐の依頼を受けたのは兎渡子だろう? 加減はした。それなりに力は削いだはずだ。後は、好きにしろ」
 蓮華は、その場にどかりと座り込んだ。
 少女だったモノは、ピクリとも動かない。だが、消滅することもなかった。近づく兎渡子。少女だったモノは、元の少女に戻っていた。着物は破れているが、体中から生えていた枯れ木はなくなっている。兎渡子が近づくと、少女は少しだけ顔を上げた。髪が、顔のほとんどを覆っている。ただ、口元は緩んでいたため、兎渡子も警戒を緩めた。
「すまない。もう一度、その珈琲をもらえないか?」
「幽世珈琲を? でも……」
「飲みたいんだ」
 そう言われては断る事も出来ない。コップは先程落としてしまったので、栓を開けて、水筒ごと渡した。少女は片手でそれを受け取ると、同じように一気にあおった。口に含むと、水筒を降ろす。そして、少し間を空けて、ごくりと飲み込んだ。
「……そうか、これがそなたの力か」
 大粒の涙が、少女の頬を伝った。
「兎渡子よ、本当に迷惑をかけた。ありがとう」
 少女は笑った。そして、ぱっと砕け散った。欠片は幾枚もの桜の花びらとなり、夜空を舞う。それもほんのわずかの間だけ。その桜の花びらも、すぐに掻き消えてしまい、残ったのは兎渡子と、地面に転がる水筒だけとなってしまった。
「……さようなら、ハルサキ」
 兎渡子は、静かに目を閉じてそう呟いた。静かに零れる涙が、頬を伝う。

 次の日の朝、兎渡子は店内の椅子に座り、静かに自分が淹れた珈琲を見つめていた。幽世珈琲ではない。彼女の指は、何もしなければ幽世珈琲を生み出してしまう。そのため、霊力を抑えるグローブを普段はつけていた。それを付けて淹れた珈琲は、ただの珈琲である。
 ハルサキ。十年前、兎渡子と兎渡子の姉である烏華が協力して鎮めた、桜の木に宿る地霊。ハルサキは、町の守護樹だった。淀みを蓄え、浄化し、町を清めていたのだ。しかし、時の流れの中でその存在は忘れられて行き、その結果信仰を力とする彼女は弱っていった。今まで浄化できていたものが、力が弱まったことで浄化できなくなる。淀みが溜まっていき、ハルサキ自身の自我を蝕んだ。それが暴走したのが、十年前である。溜まっていた淀みを、兎渡子と烏華の力で半分、兎渡子と烏華の力で活性化したハルサキが半分浄化することで、ハルサキ自身は安定した。その状態を維持するため、付近の住民にハルサキの信仰と管理を委託したのだが、付近の住民は一年もしない内にそれを忘れてしまった。
 再び暴走してしまうことを予見したハルサキは、そうなる前にかつて自分を鎮めてくれたものたちに、討伐してもらおうと考えた。それが、今回の発端である。
 幽世珈琲。服用者の、その時もっとも望んでいる記憶を再浮上、もしくは再構築する力があるとされている。これを飲めば、ハルサキ自身が一番幸せだった頃の事を思い出し、その優しい思い出の中で、消滅する事が出来るだろう。そう兎渡子は踏んでいた。しかし、結果は暴走。二度目にしてなんとか目標を達成できたが――問題は、なぜ暴走を助長させてしまったか、である。
 幽世珈琲には、まだ分からない事が多い。しかし、今回のように暴走したのは初めての事であった。
 兎渡子は考える。悩む。姉を救えなかった力を、違う方向性に転換させ、自分の力の意味を見出そうとしている彼女にとって、今回の事は大きな障害となった。


 ここは幽世喫茶。
 時には悲しい話も舞い込むお店。


 END

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