堕天王の逝く道

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zoom RSS 瑠衣子と女帝の神探し 第一話 『私は、魔法少女になった』

<<   作成日時 : 2010/10/28 20:36   >>

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魔法少女企画、やっとこさ形になりました。書いては消し、書いては消し。結局、推敲した方ではなく、勢いで駆け抜けた方が完成してしまった。

ということで、堕天王式魔法少女モノ『瑠衣子と女帝の神探し』の第一話です。



 第一話 『私は、魔法少女になった』

 2010年 6月22日
 煌々と照る蛍光灯の下、テーブルの上に置かれた金色の杖。先が十字架になっており、長さは一メートルほどある。簡素なデザインで、見ただけではそれは何の目新しさもない品物だった。
 瑠衣子は、それを片肘をついて見つめていた。杖の名は、『大地の杖』のレプリカ。人を上位の存在へと強制神化させる、魔法の杖だ。この日から、瑠衣子は『魔法少女』の道を歩む事となった。すでに二十五歳となり職も持つ彼女は、一円にもならないその役割を己に課した理由。それは、奇跡のような出会いがそうさせたのであった。

 その日、瑠衣子――沖宮瑠衣子は、明日の朝食べるパンやコーヒーを買うためにコンビニへと出かけていた。コンビニで働いている後輩と少し話をした後、コンビニの袋を携えて帰路へとつく。その途中、瑠衣子の横を幼い少女が走り抜けて行った。
 豪華なドレスを身に纏った、まだ十代前半ぐらいの少女。深紅の髪が目に鮮やかで、それは染められたような感じではなく、自然な色合いを帯びていた。
「外国の子?」
 そう思ったが、赤い髪の人間なんてものが存在するのか――という疑問にぶつかる。瑠衣子は、そんな疑問をすぐに心の中に押し込んだ。今は、そんな事を考えている時ではないからである。少女は、切羽詰まった様子だった。息を切らして道路を渡り、その先の潰れた工場の敷地の中へと入っていく。瑠衣子は何か嫌な予感を覚えて追いかけた。
 この工場は、瑠衣子がこの近くのマンションに越してきた一年前には、すでに潰れていた。その後も、建物が壊されることもなくそのまま放置され続けている。入り口は、鉄製の柵で閉じられていたが、高くはないため乗り越えるのは難しくなかった。
 静かな工場の敷地。建物は左半分だけで、右半分は途中まで舗装されてあるが奥の方は、草が好き放題生えているようだった。周りを見渡してみるが、あの深紅の髪の少女の姿はない。
 慎重に足を運ぶ。物音を立てないようにゆっくりと一歩ずつ、周りをうかがいながら。少しして、工場の入り口がわずかに開いていることに気付いた。瑠衣子は、迷わずその隙間に体を滑り込ませた。
 真っ暗な世界。視界は最悪である。少し闇夜に目が慣れていたのだが、工場の中は外と違って、ほとんど光が入ってきていない。それに瑠衣子には見えていないが、工場の中にはいくつもの機械がそのまま放置されており、その機械が多くの死角を産んでいた。
「……それがあなたの決断?」
 声が聞こえた。愛らしい声だ。目を凝らし手で機械の位置を把握しながら、奥を見渡せる場所を探す。
「お前に、そんな権限はない! お前のその横暴さが、先の事を引き起こしたのだ! 責任を果たしたいならば、ここで死ね!」
 違う女の声が響く。怒気が強く込められており、瑠衣子の心拍数は跳ね上がった。
「なんだか分からないけど、やばいくない?」
 慎重に足を進めていたが、そんなまどろっこしい事をしている場合ではないと判断した瑠衣子は、音を立てる事を覚悟で歩を速めた。段々と目が慣れてきたこともあり、瑠衣子の動きは格段に速くなる。しかし、いつまでも少女の姿を捉える事が出来ない。乱立する機械が、ことごとく瑠衣子の視界を邪魔していた。
 そんな折――。
 ギィン! と金属がぶつかる音が響き、続いてけたたましい音が響き渡った。工場全体が揺れたような気がした。音と揺れにびっくりして、身構える瑠衣子。それらが収まって顔を上げた時、瑠衣子は驚愕した。工場の奥の方に、先程までなかった光が差し込んでいたからだ。ガチャガチャと金属が擦れる音が聞こえる。工場の中に光源が発生したことで、視界が一気にクリアとなった。瑠衣子は、光が差し込んでいる方へと走った。
 舞う埃が、光の中で踊っている。工場の壁が破壊され、道が出来ていた。その道の果てには、銀色に輝く鎧が立っている。中世のヨーロッパの甲冑のようだ。瑠衣子の視界にはさらに、銀色に輝く両刃の剣も見えていた。
 振り上げられる剣。瑠衣子は、工場の外へと出た。
「待ちなさい!」
 振り上げられた剣が止まる。銀色の甲冑を纏っていた存在は剣を降ろして、顔だけ瑠衣子の方へと向けた。驚いた事に、銀色の甲冑を纏っていたのは銀色の髪が美しい絶世の美女だった。金色に輝く瞳を、訝しげに細めている。
「何者だ」
 凛とした涼やかなる声。鋭い殺気が、瑠衣子の身に刺さる。この時、瑠衣子は心の中で『困ったことになった』と呟いていた。目の前の存在が何者かは分かるはずがない。だが、瑠衣子にははっきりと分かることが一つだけあった。戦った場合、瑠衣子には万に一つもの勝ち目はない――そのことだ。
 瑠衣子は、護身術や父から強制的に叩き込まれた格闘術を習得している。そこら辺の男なら、軽く圧倒できる実力の持ち主だ。しかし目の前の存在は、一言で言えば『規格外』。肌で感じた。瑠衣子はアマチュアで、相手はプロ。戦いのプロなのだと。
 それが分かっていても、瑠衣子は引き下がれないと心に決める。銀色の甲冑を纏った存在の向こう側には、座り込み左腕を右手で抱いている先程の深紅の髪の少女が居たからだ。
「それはこっちの台詞。そんないたいけな女の子に、なにその恰好。どこの騎士様か知らないけど、とっとと城に帰りなさいよ」
「……情報の検索は出来ないか。やはり世界が違えば、勝手も違うか。面倒だな。人間、とっとと去れ。この世界の人間であるお前には、微塵も関係がないことだ」
「世界が違う? この世界の人間? もしかして、違う世界から来たなんていう事を言いたいわけ?」
「聡い子だ。その認識で間違っていない。女帝、お前からも言ってあげろ」
 女帝と呼ばれた深紅の髪の少女。その瞳は、銀色の甲冑の女と同じ金色の瞳をしていた。
「そこの人間。か弱き者を救おうとするその心の尊さは、大変素晴らしい。しかし、私は見た目通りのか弱き存在ではない。あなたを巻き込むことを、私は願わない。帰りなさい。あなたの現実に」
 深紅の髪の少女は、よろめきながらも立ち上がった。
「月、場所を変えましょう。私は、逃げない」
「……確かにここは戦いに相応しくない」
 銀色の甲冑の女から、殺気が消える。
 瑠衣子は、完全に蚊帳の外。状況が不明過ぎて、介入する機会を完全に見失っていた。戸惑う瑠衣子。その時である。
「二人を行かせてはいけない」
 瑠衣子の背後から声がかかった。振り返るとそこには黒い髪を短く切った十代半ばぐらいの少女が立っており、その瞳は深紅の髪の少女、銀色の甲冑の女と同じ金色の輝きを帯びていた。
「君の判断は間違ってはいなかった。今の力を失った女帝では、一方的な戦いにしかならない。それをお互い知っていながらも、何の疑問も持たずに受け入れてしまっている。こんな理不尽なゲームは、成立させてはいけない」
 黒い髪の少女は、瑠衣子の傍まで歩いてくる。得体が知れなくて、半歩後ろへと下がる瑠衣子に、黒い髪の少女は金色に光る先が十字架になった杖を差し出した。
「これを使いなさい。まぁ、これを使った所で君が月に勝てる可能性は低いが、ボクも協力する。それで月は倒せる。君が助けようとしたあの深紅の髪の少女も助けられる。これは、迷う必要のないゲームだ」
 自信に満ちた黒い髪の少女。顔を見てゆっくりと手を伸ばすが、やはり得体が知れなくて触れる気にならず、指が届く前にためらう。
「早く手に取りなさい。手遅れになれば、ゲームオーバーだ。あの子は、月によって解体される。そんなことになれば、君にも聞かせてあげることになるよ、あの子の断末魔を。それは、君が望んだエンディングか? 違うだろう。人間は、可能性を選択できる。君の前にあるのは、勇者の剣だ。さぁ、ゲームを始めよう。あの子を助けるという、最高のエンディングを迎えるために」
 瑠衣子は、決断した。黒い髪の少女が差し出す金色の杖を手に取った。
「そうそれでいい。ゲームスタートだ」
 杖を手に取った瞬間、瑠衣子は情報の本流というものを垣間見た。圧倒的な光の中に泳ぐ、いくつもの知らない文字。それが次々に、知っている日本語へと変換されていく。その本流の中で、瑠衣子は今しなければならないことを知り、必要な言葉を知った。
「……上位なる存在への神化。私のイメージ……大いなる空への飛躍、翼を持った存在、自由への跳躍……見えた、変身」
 瑠衣子は、杖を振るった。次の瞬間、光の渦が瑠衣子の体を包み込み莫大なる力――魔力を外へと放出した。
「なっ……んだ、この力は!」
 銀色の甲冑を着た女が振り返り、驚愕する。その視界に変化する瑠衣子、そしてその後ろにいる黒い髪の少女が映る。銀色の甲冑を着た女は、忌々しそうに唇を噛んだ。
「愚者か! 人間を使って、何をするつもりだ!」
「あの杖は、大地の杖のレプリカ! 愚者、何をしたのか、分かっているの?」
 深紅の髪の少女もこの展開には目を丸くして驚いていた。
「大地の杖のレプリカ?」
 銀色の甲冑を着た女が、怪訝そうに呟く。
「女帝、月、二人のゲームはリセットだ。そんなもの、ボクは認めない。認める必要がない。そして、これは彼女が望んだ選択だ。誰にも否定されることがない、人が選んだ人らしい選択の結果だ!」
「お前らしい言い方だ! 人を唆して言う事か!」
「まったく心外だな。ボクは、人の可能性を見出すモノ。己が何者なのか、道を迷うピエロに道を指し示す存在。己が何者であるか、探し続けている間は人はどこまでも強くなれる。その可能性の素晴らしさを、君らは理解しなかった。だから、悲劇は起こった。月、恨むなら己の『愚かさ』を恨んだら?」
「愚者……!!」
 銀色の甲冑を着た女の悔しさを滲ませた声の狭間で、瑠衣子を包んでいた光の渦が弾けた。大きく広がる一対の白い羽。羽ばたく度に、光の粒子が舞う。赤を基調にしたゆったりとした神衣を纏い、金色の槍へと変貌した杖を右手に持った瑠衣子は、神々しくまた尊大な雰囲気を持ち、大地へと降り立った。
「この霊威……! 人間を神に変えたというのか?!」
「その答えだと、七十点ぐらいかな」
 不敵な笑みを残す黒い髪の少女。瑠衣子は、すっと金色の槍の切っ先を銀色の甲冑を着た女に向けた。その後ろに居た深紅の髪の少女は、慌てて銀色の甲冑を着た女の背後から移動する。銀色の甲冑を着た女は、白銀の盾を身構えた。
「ファイア・レーザー」
 瑠衣子の言葉が締めくくられた次の瞬間、金色の槍の先から赤い光が生まれ、それは一本の巨大な赤い光線となって銀色の甲冑を着た女に向かって伸びて行った。灼熱の炎の光線。空気を焼き、触れてもいなのにその熱量で大地に黒い線が生まれる。銀色の甲冑を着た女は、何の悲壮感もなくただ盾を構えていた。銀色の甲冑を着た女が構えている盾は、ありとあらゆる魔法を無効化する。銀色の甲冑を着た女にとって、この攻撃は無意味なものになる――はずだった。
 構えていた盾が、急に動いた。いつの間にか回り込んでいた黒い髪の少女が、盾に蹴りを入れたのだ。黒い髪の少女が、確信を持って笑う。銀色の甲冑を着た女は、そんな彼女を命一杯睨み、そして赤い光に飲み込まれていった。
 爆発音と熱波が吹き荒れ、闇夜を赤く染めた。

 ファイア・レーザーの余波で大事となったため、変身が解けた瑠衣子は深紅の髪の少女と共に現場から逃げて、近くのマンションの三階の自分の部屋へ慌てて帰った。深紅の髪の少女は、『ごめんなさい』と消え入りそうな声で呟いた後、意識を失ってしまう。深紅の髪の少女を自分のベッドに寝かせた後、瑠衣子は居間へと戻り、自分を変身させた杖をテーブルの上に置いた。
「わけわかんない」
 大きなため息を吐いて、瑠衣子は顔を伏せた。そしてそのまま彼女は寝入ってしまった。


 第一話 END



第二話は、深紅の髪の少女の正体や大地の杖とはなんなのか、などなど。第一話の解答編になります。プロットもまだ立てていないので、来年の話になるかもです。

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