堕天王の逝く道

アクセスカウンタ

zoom RSS 由紀子・夏樹編 第八話 『信じがたいなにか』

<<   作成日時 : 2008/06/22 23:18   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

少し遅くなりましたが、第八話です。
最初は、夏樹の視点で前半を書き下ろしていたのですが、視点がころころと変わるのもどうかと思い、由紀子で一本絞り。
体育祭の話はカット。聡編として、修正するつもりです。
少し、聡の過去について触れました。就職を断られていた理由ですね。
夏樹や由紀子が知らないのは、一致していないからです。
ニュースは見ていたはずですし、彼をテレビで見ていたはずですが、同一人物だということに気付いていないだけ。
恋は盲目なのである。

では、第八話です。

 第八話 『信じがたいなにか』

 2005年 6月上旬
 天妙にあるネットカフェに由紀子(ゆきね)の姿があった。ネットどころか、パソコンさえ縁遠い彼女であるが、趣味を充実させるためにはどうしてもネットは必要不可欠。そのため彼女は、一ヶ月に一回程度ネットカフェに通っていた。いつものように趣味のオカルト関係のHPを閲覧していた彼女だが、唐突に集中力が切れた。オレンジジュースを無意味にかき混ぜるのにも飽き、座り心地抜群の椅子の背もたれに背中を預け、天井を仰いだ。
「・・・はぁ、気分が乗らないな」
 脳裏に聡の姿が過ぎった。今一番彼女が気になっているのは、聡とのファーストコンタクとで起こった不思議な体験である。神山聡とは、どんな接点があるのだろうか。椿が言うように、前世の記憶――なのか。椿の言葉を、疑う気はない。なにせ、あっちは本職だ。にわか仕込みの由紀子とは違う。でも、それでも――納得できない、彼女がいる。前世なんて遠い記憶なんかじゃない。そして、あの記憶は忘れたくなかった、大切な思い出のような気がしていた。だが、どんなに考えようとも、あの時見た光景以上のことは、何も思い出せない。
 聡の名前を検索してみよう。そう思い当たった由紀子は、さっそく『神山聡』で検索をかけてみることにした。同姓同名は星の数ほどいるため、当てにもならない単なるお遊び。誰もが一度は、自分の名前を検索してみるものである。
 検索欄に名前を打ち込み、エンター。思いのほか、項目がずらっと並んだ。その検索件数を見た時、由紀子は思わず驚きを声にしていた。
「一、十、百・・・十万件超えてる?!」
 由紀子自身の名前を検索した時は、五十件程度の件数だった。それから考えると、すさまじい検索件数である。そんなに同姓同名が多いのか。検索された項目を見た時、由紀子は更なる衝撃を受けた。
「な・・・にこれ・・・?」
 検索にひっかかった名前は、どれも同一人物、そしてある事件のことについての記事だった。
『人気アナウンサーの末路、神山聡、麻薬物所持で現行犯逮捕!』
 由紀子は、慌ててページを閉じた。見てはいけないものを見てしまった気がしたからだ。
「・・・何かの間違いよ」
 由紀子は、そう呟くだけで精一杯だった。その後、逃げるようにネットカフェを出た。ずっと部屋にこもっていたため、初夏の日差しが眩しい。これからどうしようかと歩き始めたその時、由紀子は思わぬものを目にした。
「夏樹・・・それとあれは・・・」
 『聡』と小さく呟く。由紀子が目にしたのは、夏樹と聡が一緒に町を楽しげに歩いている姿だった。しかもこっちに向かってきている。由紀子は、慌てて反対方向に走り出した。目的地など関係なく、ただがむしゃらに。
 近くの百貨店に入った後、トイレへとまっしぐら。そこで由紀子は、息を落ち着かせる。鏡に映る己の姿が、彼女にはやけに情けなく見えていた。
「・・・私、なにしているんだろう」
 聡と夏樹が一緒に歩いていたからといって、自分に困ることはあるのか、そう考えてみると、何一つないことに彼女は気付いた。あの時逃げ出した自分の心理が分からず、由紀子は苦笑を浮かべた。
 気を取り直してトイレから出た後、由紀子は気分転換も兼ねて地下にある本屋を訪れた。この地下の本屋は、他の本屋に比べて狭い割には珍しい本が並んでいる。綺麗な店ではないため、玄人(くろうと)好みというのが的確かもしれない。
 本の香りが、由紀子の心を楽しくさせる。いつものように新刊のコーナーを回り、小説のコーナーへ。そこで由紀子は、一瞬動きを止めた。小説のコーナーの端のほうで、黒いロングスカートと黒のタートルセーター、そして黒い帽子に黒いサングラスをつけたまるでどこぞの殺し屋のような格好をしている長い髪の女性が立ち読みしていたからである。怪しいとかそんな問題じゃない。近づきたくない、それが正解である。由紀子も軽やかにリターンしようとしたが、その横顔にどことなく見覚えがあり、再度ちらりとその怪しげな女性を見た。
 由紀子は確信した。確信した後、声をかけるべきか黙って立ち去るべきかの二択の選択肢を突きつけられることに。少し考えた後、結局由紀子は彼女に声をかける選択肢を選んだ。
「椿さん」
 面白いように取り乱す女性。ずれたサングラスの間から、今にも泣き出しそうな黒い切れ長の瞳が見えた。
「ゆ、由紀子さん・・・脅かさないでください」
 ほっと一息つく椿。由紀子は椿のリアクションが楽しく、けらけらと笑った。その笑いが、椿の気分を害する。
「そんなに笑わなくても・・・!」
「ゴメン、ゴメン」
「はぁ、馬鹿にしているのですね。クールで通している私が、こんな小説を読んでいることを」
 椿が持っている小説は、いわゆる恋愛小説である。薙刀一本で妖どもを屠る彼女のイメージとは確かに食い違う。
「でも、これを私に教えたのは由紀子さんじゃないですか」
「別に馬鹿にとかはしてないって。少しぐらい可愛げがあるほうがいいと思うけど」
「やっぱり馬鹿にしていますね?」
「だからしてないってば」
 椿の機嫌が直らない。そこで由紀子は、少し本棚に目を通し一冊の本を選び取った。
「椿さん、この本、私の今のオススメ」
 由紀子が手に取った本は、『魔王と人魔(じんま)』という名の小説だった。椿はそれを素直に受け取った。
「人がいい魔王と、ひねくれた女の子の冒険モノよ。ジャンルは、少し違うけど面白いと思う」
「由紀子さんが勧めてくれるものには、外れがありませんものね。今日は、これに致します」
 椿の機嫌は、一瞬にして良くなった。由紀子も、それなりには彼女との付き合い方を心得ていた。
「本当に面白いものしか進めてないしね。ところで今日はこれからどうするの?」
「今日はお休みですので、臨時のお仕事が入らない限りは、お暇です」
「なら、一緒にうろうろしてもいい?」
「えぇ、喜んで」
「まぁ、でも・・・その帽子とサングラスは外してよね」
 椿は顔を真っ赤にして、慌てて帽子とサングラスを外した。
「・・・やっぱり変でした?」
「相当ね」
「でもこんな趣味があることを仕事の人に知られたら、私もう表に出られません」
「ましてや小説を書いているなんて知られた日にはね・・・」
「まったくです・・・」
 いつも気丈で向かうところ敵なしの椿であるが、今の彼女にそんな面影はもう残っていない。由紀子にだけ見せる、椿のもう一つの表情であった。
 楽しいひと時は、すぐに過ぎ去ってしまう。櫻町に帰り椿と別れた後、由紀子は大木公園を訪れた。それはほんの気まぐれ、家に帰る前の散歩のつもりだった。しかし由紀子は、大木公園の守り木の前で思わぬ人と鉢合わせてしまうことに。
「あ・・・」
「お、由紀子じゃないか」
 守り木の前にいたのは、聡だった。いつものベンチに座っている。夏樹と一緒に歩いていた姿が、脳裏を過ぎる。苦々しい気分だった。
「ん? どうした気分が悪いのか?」
「いいえ・・・」
 言葉が詰まる。聡は不思議そうにしていながらも、深くは追求しなかった。彼はその代わり、自転車の籠に入れていたスーパーの袋から缶コーヒーを取り出し、それを由紀子に渡した。
「コーヒー、飲めるか?」
「うん・・・」
 コーヒーを受け取り、それからお礼を言い忘れていることに気づく。
「えと、ありがとう」
「なんだか、変だなお前。とりあえず、座らないか?」
 ベンチの横を指定され、由紀子は迷った。聡の顔を見ると、彼は笑っていた。いつものように。断るのも悪い気がしたので、由紀子は素直に彼の言葉に従った。
「話しておきたかったことがあったんだ」
「え?」
 夏樹との関係でも告白されるのかと思ったが、それは完全に由紀子の早とちりだった。
「俺が記憶を失っているのは、話したよな?」
「うん」
「記憶は戻ってないが、幼馴染に会うことができたんだ」
「良かったですね」
 由紀子は、心の底から賛辞した。聡の記憶喪失探しは、かなり難航していた。この町に知り合いがいるはずだと躍起になっていたが、それらしき人も、そして記憶の断片も見つからないままだった。それが、幼馴染と邂逅したという。これは、今までの苦労を一気にチャラにする、大きな収穫であった。
「あぁ、本当に。しかも、斎が由紀子達のクラスの担任だというじゃないか。世間って意外に狭いんだな、と思ったよ」
「えっ? 坂田先生が・・・! じゃ、櫻高校の出身なんですか?」
「まぁ、そういうことだ。ようするに、俺は君の先輩だな」
 こんな偶然があるということに、由紀子は素直に驚いていた。そして彼女は、彼と話しながら、ネットで見た記事を思い出していた。伝えるべきではない。確証もない。由紀子は、触れないことにした。
「それじゃ、記憶を探すのも終わりなんですね」
 幼馴染が見つかれば、大抵の記憶は取り戻せるはずである。しかし、聡は苦笑していた。
「いや、そう上手い話でもなくてさ。アイツ、微妙に昔の話を避けやがるし、しかもしばらく俺はこの町から離れていたらしくてさ、離れていた間のことは全く知らないらしい。昔の知り合いについては教えてもらったが、記憶については、前とあまり変わってないのが現状なんだよ」
「そうなんですか・・・」
「まぁ、でも、これで良かったと思っている。斎も言っていた。過去に縛られる事はないって。だから、俺は決めた。とりあえず、俺は今を生きる。記憶は探そうとしても、探せるものではないことが分かったからな。心の奥底にある焦燥感がなんなのかは分からないが、焦ってもどうしようもない。俺は、俺の出来る事をやることにしたんだ」
 聡の表情は、晴れ晴れとしていた。最初、会った時とはずいぶんと違う。本来の彼とは、こういう前向きな性格なのだろう。
「自分に出来る事をやる・・・ですか。聡さんは、凄いですね。私、そういう風にはなかなか」
「世間では、『能天気』だというんだよ。凄いものか」
 聡は、笑っていた。由紀子もつられて微笑む。やはり、彼といる時間は何よりも楽しい。
「そだ、由紀子は携帯持ってるか?」
 聡が、携帯電話を取り出す。それを見て、由紀子は目を丸くした。
「それ、最新機種じゃない」
「ん? あぁ、俺は何でも構わなかったんだが、夏樹の奴がどうしてもこれにしろって聞かなくてさ」
 夏樹と出かけていたのは、この携帯電話が目的だったようである。確か、少し前に聞いたことがあった。彼の持ち物は、左の薬指にはまっているプラチナの指輪だけである――と。
「夏樹は、そういうのにうるさいですから。えと・・・携帯は・・・」
 カバンの中をガサガサ探す。いつも使うものではないので、大抵奥の方にしまいこんであり、簡単には取り出せないのだ。カバンの中で硬いものを探り当て、それを引っ張りだす。姿を現したのは、見事に傷だらけの携帯だった。
「まっ、そんなもんだよな」
「そんなものですよ」
 携帯にこだわっていない以上、聡の携帯も由紀子の携帯と同じ運命をたどるであろう。メールアドレスと電話番号を交換した後、聡はすぐに帰っていった。残された由紀子は、登録された聡の名前を見て、少しだけ嬉しそうに笑い、携帯をかばんの中になおした。

END


第九話 『足をもがれた鳥』
現在、ちょっぴり書きました。こちらは修正ではなく、ネタは一緒で書き下ろしです。
第八話と同じく、視点を変えるべきかどうかで悩んでいます。
内容は、夏樹が交通事故に遭って・・・という話です。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
由紀子・夏樹編 第八話 『信じがたいなにか』 堕天王の逝く道/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる