堕天王の逝く道

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zoom RSS 由紀子・夏樹編 第六話 沙夜の能力を封印しましょう 後編

<<   作成日時 : 2008/06/16 21:02   >>

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最近、眠りが浅いのか、よく夢を見ます。
今日は、ヨットで別の大陸に行く夢を見た(笑。

この夢を元に、短編小説『エメラルド・ダンサー』(仮)を練り上げました。
まだプロットも出来ていませんが、長編の修正の目処が付いたら、気晴らしに書こうかと思ってます。
相も変わらず、恋愛小説です。
孤島に住む商人の少年と踊り子の少女の物語。


さて、長編ですね。第六話です。
沙夜は、独自の『沙夜編』を持っているので、この話が丁度その分岐点になります。彼女は、実に汎用性の高いキャラで、色々な話に出て来ます。でも、ヒロインにはなれない。名脇役という位置付けが、丁度いいのかもしれません。
一応、彼女がヒロインとなる話があったりするのですが、その話は由紀子・夏樹編の三年後という、もう途方もない先の話で、そこまで辿り着く気力があるとは思えません(苦笑。沙夜は、一生脇役決定です。
最後の方に、またちらりと水及さんが出てきますが、今回出てくる水及さんが本来の性格です。あまり出番がないので、紹介できる時に紹介しておかなければ・・・。



 第六話 『沙夜の能力を封印しましょう 後編』

 前回までのあらすじ
 霊媒の能力を有する氷女沙夜。かつて同じ能力を有していたサトリという人が、『水及』と呼ばれる山神の巫女に、能力を制御してもらう術を授かっていた事を知った沙夜は、由紀子と神華と共に歌宝山を目指した。そこで水及と出会うことが出来たが、どうやらサトリと沙夜では、条件が違うらしく、制御する方法を教えられないとのこと。もう一つの方法を得るために、三人は橘家へと目指すこととなった。

 神華は、用事があると帰ってしまった。そのため、由紀子と沙夜だけで橘家へと向かった。水及が車を出す――というから、どんな車かと思えば、なんと軽トラック。あまりのギャップに驚いていたが、狼命曰く、『主(あるじ)の実益と嗜好の産物だ』とのこと。確かに、水及一人乗せるには問題ないし、荷物もたくさん乗る。税金も安いし、車検代だって安い。言っていることは、確かによく分かる。だが、納得がちっともいかない由紀子だった。
 乗り心地は最悪だった。櫻町の道は、もう本当に谷あり山あり。一体、いつから舗装されていないんだ? というぐらいに、道が荒れていた。なので、車がよく跳ねる。車が跳ねれば、由紀子たちも跳ねる。そして、尻を打つ。踏んだり蹴ったりである。
 車でおよそ十五分程度の行程を追え、ようやく軽トラックは目的地である橘家が管理する橘神社の、石段の下にたどり着いた。
「ありがとうございます」
 由紀子と沙夜が礼を言うも、狼命は何も答えずに帰っていってしまった。なんとも付き合いの悪い男である。
 橘神社。櫻町に古くからある神社であるが、住民に慕われている御櫻神社と違い、ほとんど誰も近づかないそんな神社である。由紀子は、この橘神社を管理している橘家が行っている本当の家業を知っている。
 『除霊屋』。魔や妖を払う仕事。由紀子の友達である椿もまた、その仕事に従事しており、彼女が高校へと進学しなかったのも、仕事に専念するためであった。
 長い石段を超え、息絶え絶えで境内(けいだい)にたどり着いた、由紀子と沙夜。境内では、椿が彼女達を待っていた。
「あ、来ましたね。お疲れ様です、由紀子さん。それに、初めまして。橘椿です」
 仕事着の巫女装束を身に纏った椿。おしとやかに頭を下げる。
「は、はじめまして。氷女沙夜です。よろしくお願いいたします」
 緊張している沙夜は、深々と頭を下げていた。
「ども・・・椿さん、はぁ、シンドイ。あの石段、減らせないの?」
「それは無理ですよ。ダイエットになって、丁度いいでしょ?」
「だから、太ってない、て。皆が痩せすぎか、絞りすぎなのよ」
 椿は、嘆息を吐く。
「運動をしてください。由紀子さんの不摂生振りは、目に余ります。氷女さん。由紀子さんと付き合うのは別に構いませんが、彼女に引きずられて同じ生活をしないように。出来るならば、首に輪でも付けて外に引きずり出してください」
「あ、はい! 気をつけます!」
 沙夜は、かしこまってそんな返事をしていた。
 椿に案内され、神社の裏の母屋へと通される。母屋は、古い木造建築。江戸時代にでも迷い込んだような錯覚を抱かせるような、そんな建物である。
 木張りの廊下を、椿に付いて歩く。すると、反対側から一人の少女が歩いてきた。年の頃は、沙夜と同じぐらいか。髪型は、ポニーテール。瞳は鋭くて、野犬のよう。桜色の美しい着物を身に纏った彼女の事を、由紀子は知っていた。
 橘櫻。椿の妹である。
「・・・櫻、お客様よ」
 歩みを止めて、椿が声をかける。櫻は、頭を軽く下げていた。由紀子は、黙っている。どうもこの櫻という子は苦手なのだ。話さないなら、話さないことに越した事はない。由紀子は、彼女と言葉を交わす気は最初からなかった。
「こんにちは。お邪魔しています」
 礼儀正しい沙夜は、ちゃんと頭を下げていた。そして――。
「どうして・・・お兄ちゃん・・・どうして・・・」
「えっ? 沙夜ちゃん?」
 突然、沙夜が意味不明なことを口走った。沙夜の瞳は、櫻に集中していた。瞬き一つしていない。完全に硬直している。その彼女の額から、つぅと血が流れてきた。なにも、そこには傷が無かったにも関わらず。
 櫻が動いた。切羽詰った表情で踏み込んでくる。突き出した右手は、沙夜の首を狙っているようだった。
「やめなさい、櫻!」
 その手が届く前に、椿によって止められた。櫻はしばらく沙夜を睨んでいたが、諦めたのか力を抜いた。
「申し訳ありません。手を離してもらえますか?」
「あ、ごめんなさい」
 椿が手を離すと、櫻は踵を返して来た道を戻っていってしまった。
「大丈夫ですか、氷女さん」
 椿はハンカチを取り出し、沙夜の額から流れた血を拭う。
「どういうことなの椿さん?」
 椿は難しい顔をしていた。
「あの子の過去を見てしまったようね。体験したことが肉体にまで影響が及ぶなんて、とんでもない力だわ。これが、サトリの力」
 椿は、サトリの力がどういうものか、正しく知っているようである。沙夜は、『霊媒』だと言っていたが、他者の過去を見ることも『霊媒』だと言えるのか。由紀子は、すぐに『NO』という答えを導き出す。それは、もっと違う異質な力だ。サトリ。その名前が意味する能力。由紀子は、感づいてしまった。沙夜が隠している、もう一つの力のことに
「あ・・・私・・・?」
 そこで沙夜が正気に戻った。戸惑っている彼女に、椿はゆっくりと優しい声音で話しかけた。
「大丈夫。ちょっとした事故よ」
「事故・・・? 違う。私、また・・・人の心を・・・!」
「落ち着いて。大丈夫だから」
 椿の言葉は入っていかない。沙夜は、怯えきっていた。
「私を殺して・・・! もう・・・殺して・・・! どうして? やっと私・・・」
 沙夜は、遂に座り込んで泣き始めた。『やっと私・・・』。その言葉の後に、何が言いたかったのだろうか。由紀子には、なんとなくだが彼女の言いたかった事が分かっていた。だから――。
「行こう」
 手を差し伸べる。言葉は、紡げば紡ぐほど嘘になる。大切なのは、由紀子の今の気持ちを示す行動である。
 沙夜は、しばらく由紀子の顔を見上げていた。
 由紀子は、微笑んでみせる。安心しなさい。私は、あなたの味方である――と。
 涙を拭う沙夜。由紀子の手を取り、立ち上がった。ぎゅっと力強く握ってくる沙夜の小さな手を、由紀子は握り返した。椿も、ほっとしたようだ。
 沙夜と由紀子は、母屋の一番奥に案内された。
「当主、お連れいたしました」
「中へ」
 椿が中に伺いを立てると、渋い声が返ってきた。
 中へと通される。室内は、水及の部屋に比べたらとても狭い。六畳程度ではなかろうか。しかし、部屋に置いてあるものは非常に似ていた。これでは、水及の部屋のミニチュア版である。ただ違うのは、水及が座っていた場所に、強面の渋い白髪の老人が座っていることぐらいであろう。
 橘勝彦。椿の祖父であり、橘家の当主である。
「椿は、下がれ」
「あ、はい。分かりました」
 戸惑いつつも、椿は部屋を出て行く。残された沙夜と由紀子は、緊張した面持ちで老人の前に座った。
「ご無沙汰しております」
 由紀子は、かしこまった口調で挨拶をする。
「元気そうだな。そちらが、氷女沙夜殿か」
「あ、はい」
 緊張する沙夜に、勝彦は少し柔らかい表情を浮かべて見せた。
「硬くならなくていい。私は、この橘家の当主をしている勝彦だ。話は、水及様から聞いている」
 由紀子は、少し驚いていた。勝彦まで、水及を『様』を付けて呼ぶ。さすがに由紀子も勝彦がどれだけ偉いのかは把握しきれていないが、警察も役人も口出しできないことぐらいは知っていた。その彼が、『様』を付けるほどの相手だという事なのだろう。
 勝彦は、早速とばかりに古びた木箱を沙夜の前に置き、その蓋を開けた。中には、青い色の玉で作られた美しい数珠が収められていた。
「『鎮めの契り』だ。君の力が外に出なくする、『堰』の代わりになるものだと思ってくれればいい」
 沙夜は、恐る恐る鎮めの契りを手に取った。その瞬間、沙夜の表情が急変。困惑した表情を勝彦に向けた。
「こ、こんな大事なもの私もらえません!」
「・・・感じてしまわれたか」
「どういうこと?」
 沙夜は、泣きそうな顔を由紀子に向けた。
「これ・・・さきほどの椿さんの・・・お父さんの形見・・・です」
「えっ? じゃ、椿さんを払ったのって・・・」
 由紀子も感じていた。なぜ椿を払うのか。彼女も十分状況を把握しているのだから、この場にいても不思議はない。由紀子はむしろ、当然だと思っていた。
「椿には、父親の死について詳しくは話していない。もしやと思って、出てもらったのだ」
 勝彦は、一旦言葉を切って座りなおした。
「確かにその鎮めの契りは、私の息子である一哉の能力を封印するために水及様がお作りになったものだ。だが、それは君が背負う必要のないものだ。一哉の妻も君にそれを渡すことを承認している。なぜだか分かるか?」
 首を横に振る沙夜に、勝彦は厳かに微笑む。
「一哉なら、そうするからだ。受け取ってほしい」
 しばらく悩んだ後、沙夜は鎮めの契りを左の腕に付けた。
「椿には内緒にしておいてくれ。あの子に語るには、私の覚悟の方が足りないものでな」
 勝彦は苦笑していた。

「で、効果の程はどうなの?」
 橘神社を後にし、石段を降りきったところで、由紀子はそう聞いた。しかし、実の所は沙夜が嬉しそうにしているのを見ただけで、効果は絶大であったことが窺えていた。
「世界が、違うように思えます。こんなにも世界は静かだったんですね」
 彼女に込められた思いは、底知れない。
「そっか。これで万事解決ね。良かったぁー!」
 大きく伸びをする由紀子。沙夜も笑顔でそんな由紀子を見つめていたが、すっとその表情を引き締めて、橘神社を見上げた。
「・・・あの子のこと、気になるの?」
「分かりません。でも・・・・そうかもしれません」
 曖昧な言葉を残す、沙夜。彼女にもよく分かっていないようだ。
 鎮めの契り。それは、きっと沙夜の生活を変えてくれる。彼女の表情が、もっと明るくなる事を望む、由紀子であった。

 机の上で眠っていた水及は、帰って来た狼命の足音で目を覚ました。
「いま、帰りました」
「ご苦労」
 水及は、体を起こして、どこかいたずらっぽく微笑む。
「で、彼女とは何かお話はしたのか?」
「いいえ。彼女は、サトリ様とは違います」
「条件は同じだ。また、折角のチャンスを不意にするつもりか?」
「お言葉の意味が分かりません」
 狼命は、きっぱりとそう言った。相変わらずの彼の態度に、水及は溜息を吐いていた。
「そうか。相変わらず、つまらぬ男だな、お前も」
「それよりも、橘家から依頼されていた例の件、なにも調べなくて宜しかったのですか?」
「あぁ、さきほどちらりと見たが、私の封印は問題なく稼動していた。ちょっとした、フラッシュバックに過ぎない。無理やり頭を抑えているんだ。そんなこともある。気を遣いすぎだ」
 水及はなんでもないと笑っていた。

END

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第七話 『聡の就職先』。現在、後半を書き直し中。今日は、頭がくらくらするので執筆できそうにないです。
明日の朝に少し時間があるので、もしかしたら書き終えるかもしれません。
聡が、夏樹のつてでようやく就職先を見つけるよ、そんな息抜きのような話。でも、これからの夏樹の行動に厚みを持たせるためには、必要な話です。
第八話ぐらいまでは、ゆっくりとした話。九話で一回、落とします。

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