堕天王の逝く道

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zoom RSS 由紀子・夏樹編 第三話 聡への疑念

<<   作成日時 : 2008/06/13 15:18   >>

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最近、お腹の調子がよくありません。なんか、悪いものでも食べたんかいな。
梅雨の晴れ間とはよく言ったもので、よか天気。


てことで修正版、第三弾です。
前回の第三話〜第四話から、必要な部分を切り取って、一話にまとめました。
すっきり。
椿さんが、結構『らしく』書けてよかった。
『茜』の話は、物語の肝です。でも、しばらく名前が出てこないので、忘れられそうなのが心配。

では、第三話をどうぞ。

 第三話 『聡への疑念』

 2005年 4月
 椿は、オフタートルTシャツと黒いロングスカートという服装に身を包み、鏡の前でクルクルと回る。今日は、由紀子たちとお出かけする日。生活のほとんどを着物で過ごしている彼女であるが、友達と過ごすときは目立たないように洋服を着る。ずぼらな由紀子に比べれば、彼女の方がずっとお洒落であった。
「こんなものでしょうか」
 すでに用意しておいた黒い手提げのバックを持って、椿は廊下へと出た。するとちょうど妹の櫻(さくら)が廊下を歩いていた。椿に気づいた櫻は、軽く会釈をする。
「お出かけですか、椿姉さま」
 いまどき珍しいポニーテールの櫻。服装は、薄い桜色の着物である。感情の薄い細い瞳に、痩せすぎた顔。その姿は、痩せた犬を連想させた。
「えぇ、友達と」
 気恥ずかしそうにしている椿。滅多に洋服を着ないため、どうしても恥ずかしいのである。しかし対する櫻はというと、凍てついた表情をピクリとも動かしてはいなかった。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
 ペコリと頭を下げ、横を通り過ぎていく。椿は何か声をかけようとしたが、結局何も言うことはできなかった。
 時刻を確認する。そこで椿は眉根を細めた。現在時刻は、十一時五十分。部屋に戻って目覚まし時計の時刻を確認してみる。そっちは十一時半で――秒針が止まっていた。
「ちょっとなんで止まっているんですか、このボケ時計!」
 椿は、慌てて家を出て行った。
 待ち合わせ場所は、櫻駅の前。走った所で間に合う距離ではないが、彼女はかまわず走る。折角セットした髪が乱れる事を気にしながらも、まっしぐらに駅に向かうのであった。
 時刻は、十二時七分。椿は、駅前に立っている夏樹を見つけ、全力で走り寄る。夏樹も気づいてそんな椿に手を振ったが、彼女にそんな余裕はなかった。そのまま走り寄り、夏樹の肩をガシッと掴んだ。
「お、遅れて申し訳ありません!!」
「いいいいいい、OK、OK! とりあえず落ち着こうよ椿ちゃん」
 ガクガクと揺さぶられる、哀れな夏樹。椿は姿身はか細いが、その腕力はとんでもない。揺さぶられすぎると激しく危険である事を、夏樹もよく知っていた。
「時計が故障していまして・・・申し訳ありません」
「いいよいいよ。それに・・・椿ちゃんに悪いけど・・・」
 夏樹は周りを見渡す。日曜日である事もあって、人も車も割かし通っている。しかし、そこには彼女が探している者達の姿は見当たらなかった。
「・・・夏樹さん」
 椿も様子がおかしい事に気付いたようだ。彼女も、周りを同じく見渡す。だが、彼女の瞳にも夏樹と同じものしか映らなかった。
「後の二人はどうされたんですか?」
「それが・・・」
 夏樹は、少し言葉を濁らす。だが、もう誤魔化す事も出来ないので、できるだけ明るく椿に告げた。
「十分前からここにいるけど、だ〜〜〜〜れもこないんだなぁ! あはははは!!」
 夏樹の笑い声が、虚しく響き渡る。椿は、いまだに夏樹の洋服を掴んでいる。だから分かった。その握力が、瞬間的に増した事に。
「この私が・・・どんな思いで・・・」
「ゆ、ユッキーが遅刻するなんて、ほら・・・ね?」
「夏樹さん」
 椿の声は、まるで井戸の底から這い上がってくる地獄からの怨嗟(えんさ)の声のよう。夏樹の顔も、真っ青に。
「そ、そうだよね。遅刻なんて、悪い事だよね。にゃははは・・・」
 最後の方は、もうほとんどかすれていた。
「迎えに行ってきますね」
 椿が浮かべた笑みは、あまりにも完璧すぎた。彼女は、普段あまり笑わない。そんな彼女が笑うときは、大抵怒っている時である。
 椿は、長い髪をたなびかせ、颯爽と由紀子の家を目指していく。
 夏樹には、それをただ見届けるしか出来なかった。

 由紀子の家まで、およそ三十分程度。その道程を、椿は十五分に短縮させた。端から見るとただ歩いているだけのように見えるが、速さが尋常ではない。彼女の所だけ、早送りでもしているかのようであった。
 由紀子の家族とは顔見知りなので、チャイムも鳴らさずに家に上がる。『おじゃまします』と、居間でテレビを見ていた由紀子の母親に挨拶してから、二階へ。階段上がってすぐ左の部屋。そこが由紀子の部屋である。
 ドアを開けると、ガンと何かにぶつかる。散らかっている本に阻害され、ドアは半分ほどまでしか開かない。その間に体を滑り込ませ、室内へ侵入した。
 由紀子は、気持ち良さそうにまだ眠っていた。もう昼も過ぎているというのに。ここまでくると、椿も流石に呆れていた。起こそうと近づいたとき、机の上にある本が目に付いた。脳関連の本に、精神疾患の本。あとは、小難しくてよく分からない本が何冊か並んでいた。
「・・・また凄く難しい本を。お医者さんにでもなるつもりなのかしら」
 由紀子の知識は偏っている。彼女が医者になろうとするならば、先に勉強しないといけないことは山ほどある。なんにせよ、由紀子を起こさないと話は進まない。椿は、由紀子を揺すり起こした。
「ん・・・あれ・・・? 椿・・・さん?」
 寝とぼけた顔で、目を擦っている。椿は、由紀子がいつも付けている眼鏡を由紀子にかけてあげた。
「おはようございます。随分とゆっくりとしたお目覚めでしたね。殴りますよ」
 由紀子の顔は、青ざめていた。現状を理解した様子である。
「・・・ゴメン。殴らないで。すぐに着替えるから」
「まったく、また夜更かしをしていたんでしょう。あんな難しい本を読んで」
「あぁ、ちょっとね」
 由紀子は答えをはぐらかした。さすがに椿もそれ以上突っ込んで聞くわけにもいかなかったので、由紀子の着替えを手伝う事にした。
「だから! なんで、そんな地味な服を選ぶんですか! それ、ヨレていますよ! それも却下です! 由紀子さん、少しは自分が女性であることを自覚してください!!」
 結局、椿は自分で選んだ服を由紀子に着せ、髪を整わせてから、引っ張るように待ち合わせ場所へと移動した。由紀子は、大層困り果てた顔をしていた。

 待ち合わせ場所へと着くと、見覚えのない少女が一人、夏樹の側に立っていた。少し赤茶けたセミロングの髪に、ダークブルーの瞳。やや痩せすぎているようだが、胸だけが異常に発達していた。まるで、どこぞの令嬢――そんな風に、椿の瞳には映っていた。
「あの方は?」
 由紀子に聞く。
「あぁ、神華さんだよ。鬼のように可愛いでしょ?」
「そうですね。どこから騙して連れてきたんですか?」
「人をなんだと思っているのよ。クラスメートで、ちょっと色々ときっかけがあっただけだって。夏樹、神華さん、ごめん、待たせて」
 由紀子が二人の下へと走り寄っていく。
「なにが、ゴメン、だよ! 遅い! 遅すぎる! ユッキーが言い出したのに、何分待たせるわけ?!」
「面目ない」
 そこで由紀子は振り返って、神華に椿を紹介していた。
「神華さん、友達の椿さん」
「はじめまして。橘椿です。どうぞ、良しなに」
 丁寧に頭を下げると、神華も同じように会釈していた。
「天野神華です。よろしくお願いいたします」
 容姿と同じで、とても品のいい人である。しかし、何かしらの違和感があった。それがなんなのかまでは分からなかったが、確かに何かが変。それは確信できたのだが、肝心の何がおかしいのかが分からなかった。
 椿は、気にする事でもないと開き直る。人間、一つや二つ秘めているものがあってあたりまえである。椿自身にも、由紀子や夏樹が知らない思いを抱えている。それが当たり前なのだ。
「じゃ、ボチボチ行こうよ。時間が、誰かさんのせいでごっそりなくなっちゃったしね」
「はいはい、私が悪うござんすよ」
「全員分奢ってもらわないと割に合いませんわね」
「私に死ねと申しますか、椿さん!」
「介錯は、友人代表で私がしてあげますから、どうぞすっぱりと」
「ま、まだ死にたくない! 夏樹、なんとか言ってよ。あの人、素で怖い」
「私に助けを求めないでよ! 大人しく、すっぱりされちゃえ」
「ブルータス、お前もか!」
 そんなこんなで一行は、海沿いに五分ほど歩いた所にある、喫茶店『海の家』を目指した。ひねりも何もない名前であるが、見た目は海の家なんて粗暴なものをイメージさせる佇まいではなかった。綺麗なレンガパネルで覆われた、洋風の一軒家。そこだけ、まるで世界が違うかのような感じを抱かせるその店を見て、神華は『ここだったんですね』と呟いていた。
「あっ、知ってるんだ、この店」
 由紀子と夏樹と椿。この三人は、この店によく来ていた。由紀子の問いに、神華はわずかに陰りのある笑みを見せた。
「はい、少しだけ」
 セミロングの髪をきゅっと掴む仕草。いつもの明るい感じがすっかりと消えてしまった神華に、椿、夏樹、由紀子は顔を見合わせた。
「シノ、嫌なら場所を変えるよ」
「そうそう、別に他にだってあるわけだし」
「ですね。あえてここにしなくても問題はありませんよ」
 三人の意見に、神華はいつものように笑って見せた。
「いえ、平気です。別に、この店が嫌いというわけではありませんから」
 神華がそういうなら、無理に変える必要もない。ということで四人は、店の扉をぎぃっと押し、中に踏み込んだ。
「いらっしゃい」
 という男の声は、カウンターの向こう側にいる、ひげを蓄えた四十代ぐらいの渋いマスターのもの。濃厚なコーヒーの匂いが漂う。マスターは、入ってきた由紀子達を見て。
「よっ、乙女達! 久しぶりじゃないか」
 と、気軽に挨拶してきた。常連というわけでもないが、一番最初に来たときに夏樹とオーナーが妙に意気投合したおかげで、すっかり顔を覚えられてしまっていた。
「ちぃ〜す、また来てやったよ。相変わらず、儲かってないでしょ?」
 夏樹の言葉に、『うるせぇ』と答えるオーナー。この店、決して悪くはないのだが、オーナーの性格が災いして客が少ないのだ。
「ところで・・・むっ?」
 オーナーは、神華を見て眉根をひそめる。そんなオーナーに、神華は軽く頭を下げた。
「・・・お久しぶりです」
「えっ? 神華さん、知り合い?」
 驚く由紀子。それよりも驚いていたのは。
「おぉ〜〜〜〜〜!!!!」
 なんと、店中に声をとどろかせたオーナーだった。
「神華ちゃんか! 久しぶりだな。さっぱり髪を切っちゃって、失恋でもしたのか?」
 オーナーにそういわれて、神華は困った顔をする。それでオーナーは、なにやら納得がいったようだった。
「おっと、ごめんよ。今日は、おごりにしてやるからな」
「・・・そんなに気を遣わないでください」
 神華とオーナーが紡ぐ、不思議な雰囲気。由紀子達もわけが分からず立ち尽くす羽目に。
 すると。
「オーナー、うるせぇぞ」
 と、言う声。今まで気付かなかったが、カウンターの端の方で一人の男が突っ伏していた。大きな背中に、短髪の髪。椿は、その容姿を見てはっとなった。もしかしたら――彼女の憶測は、夏樹と由紀子の言葉で、確信へと繋がった。
「神山さんだ! うわぁ、こんな所で会うなんて、偶然!」
「あら、夏樹じゃないか。偶然だな。それに、小泉も。お前たち、友達だったんだな」
「ユッキーのことも知っているの?」
「あぁ、色々と面白い話をな」
 照れくさそうに由紀子が頭を下げている。間違いない。彼が、『神山聡』。由紀子のことを、『茜』と呼んだ男。椿は、聡を睨みつけるように見つめていた。

 楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまった。由紀子達と別れ、椿は一人、大木公園の守り木の下へと足を運んだ。あの後すぐに、神山聡は『俺は、邪魔者だな』と言って、店を出て行った。そのとき、すれ違い様に彼に走り書きしたメモをポケットに突っ込んでおいた。それに気付けば、ここに現れるかもしれない。現れなければ、また違う方法を取ればいい。顔は、しっかりと覚えた。いつでも探し出せる自信があった。
 守り木の前に辿り着くと、守り木の下のベンチに聡が座っていた。眠っているようだ。近づくと、聡は示し合わせたかのように目を覚ました。少し寝ぼけた瞳で、彼は椿を見ていた。
「君は確か・・・」
「橘(たちばな)椿です。あなたのお名前を聞かせていただけませんか?」
 並ならぬ気配を感じたのだろう、聡は立ち上がった。
「・・・神山聡だけど。あの手紙、君?」
「えぇ、お話がありまして。正直に答えて頂きたい」
「話?」
「どこで、『茜』という名前を知ったのか、教えていただけませんか?」
「なぜ、君がその名前を・・・」
「由紀子さんから聞きました。教えなさい。どこでその名前を知ったのか」
 口調は穏やかであるが、椿の言葉は非常にきつかった。
「そんなに重要な名前なのか? 悪いが、俺は知らない。あの件は、人違いとしてもう片付いたことなんだ。今更、ほじくり返すのは止めてくれないか?」
 椿は、聡の胸倉を掴みあげた。
「とっても重要な名前よ。一般人が知っていていい名前じゃないわ。あなたは何者? なぜ、由紀子さんを『茜』と呼んだのか。知らないで済ませないわよ」
「よく分からないが、そんなに大切な事なのか。手を離してくれないか? このままじゃ、話しにくい」
 椿は仕方がないと手を離した。聡は、服を調える。
「小泉にも言ったが、俺は記憶喪失なんだ。今年の四月三日以前の記憶が俺にはない。だから、『茜』というのが誰なのか、分からない。小泉に似ていたのかもしれない。俺が言えるのは、それぐらいのことしかない」
「記憶を喪失している・・・」
 そこで椿は、由紀子の机の上に積んであった小難しい本の事を思い出す。あれは、彼の記憶喪失について調べていたものだったのだろう。
「『茜』というのは、君の知り合いなのか? もし知り合いだったら、会わせて欲しいんだが。記憶を取り戻したいんだ。会えば、戻るかもしれない」
 にわかに信じがたい。記憶喪失なんて、嘘の常套手段である。だが、彼が嘘を言っているように見えないのも、確かだった。
「・・・茜さんは、ずっと昔に亡くなっています。由紀子さんと縁(ゆかり)のある方なんです。この話は、内密にお願いいたします。由紀子さんを、困らせたくないでしょ?」
「そっか。分かった。もう聞かない。忘れるよ。そういうことなら」
 聡は、あっさりと椿の言葉を信じてくれた。根はとっても素直な人であるようだ。そんな彼を、疑うのはお門違いのように感じた。
「ごめんなさい。急に意味不明な話をして、胸倉まで掴んで」
「気にしてないよ。小泉のこと、大切なんだろう?」
「えぇ、とってもとっても大切な人です」
「なら、それでいい」
 聡は、優しく微笑み、ベンチに置いていた小さな箱を手に取った。
「じゃ、俺は帰るわ。君も気をつけて帰るんだぞ」
 何事もなかったように聡は帰って行った。椿は、その背中をどこか複雑な表情で見送っていた。
「記憶を喪失。過去に何かしらの接点があったのなら、由紀子さんと接触させるのは危険なのかもしれませんわね。でも、そんな曖昧な事では動けない。内偵を進めてもらって、確たる材料を揃えて、それから判断すべきですね」
 心がざわついていた。なにか、良くないことが起こるような気がしてならなかった。

第四話へ続く

明日、第四話を更新できると思いますが、第五話が現在修正に難航中です。
描写が難しい所が重なっているもので。

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