堕天王の逝く道

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zoom RSS エイプリルフールをお題にした小説

<<   作成日時 : 2008/04/17 20:53   >>

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遅くなりましたが、なんとかバタバタと書き上げました。
しかし、雨が鬱陶しいですね。しかも、私少し風邪気味で、今日一日ずっと寝ていました。

そんなこんなで、どうぞ。
HTML版は、http://www5f.biglobe.ne.jp/~pfive/tyouhen/tanpen/eipuri.htmlです。

 登場人物
 神山(かみやま)聡(さとし):記憶喪失の男。年齢は、26歳。印刷所に勤務している。
 立(たて)麻(ま)琴(こと)菜(な):若草山の中腹に建つログハウスで暮らす、世捨て人。表情が変わらない、心の病を患っている。
 坂田斎(いつき):聡の幼馴染で、櫻高校の教師。聡の良き理解者。
 由紀子(ゆきね):斎の教え子。聡との色々な因縁は、由紀子・夏樹編を参照。

 四月一日の朝、起きて居間に行くとそこにいるはずのない女性が、コーヒーを飲みながらテレビを見ていた。なかなかの美人で、スタイルもいいが、服装のせいか色気がない。表情は、どんな時でも変わることがないが、それはある種の病気らしい。聡は、驚きつつも彼女の名を呼ぶ。
「琴菜、お前・・・朝っぱらから、なにしてんだ?」
 素直な感想である。かつては、山の中腹のログハウスで同居していた身であるが、ある日を境に、聡は麓の町のアパートに引っ越した。だからといって、琴菜との縁が切れたわけでもないのだが、朝起きていないことが多い琴菜が、この時間帯に遊びに来ているというのが、理解不能なことであった。
「おはよう。今日は、伝えたい事があって」
 琴菜はやけにかしこまっている。なんだろうかと、聡は琴菜の前で正座する。琴菜は、相変わらずの無表情で、聡の顔を淡々と見つめ、そして――。
「私、結婚します」
 聡は、しばらく言葉の意味が飲み込めず、結局彼がその時に言った言葉は、『へっ?』という間抜けな一言だけであった。

 朝から衝撃を受けた聡は、盛大に仕事場で失敗するも、怒られるどころか逆に心配されるぐらい心をかき乱していた。帰りに、幼馴染の斎(いつき)と合流した聡は、彼女と共に駅前の居酒屋へ。ボックス席で、いつもよりも速いスピードで酒を消費している聡を見かねて、斎が『そこの猿、酒が勿体無い』と止める始末であった。
「なにがあったの? 聡がそんなに荒れるなんて、珍しいじゃない」
 聡は、目をなかなか合わせようとしない。目を泳がし、日本酒を口に含み、焼き鳥の竹串で空を撹拌する。挙動不審、ここに極まり。
「まぁ・・・あったというか・・・なんというか・・・」
 歯切れの悪い聡に、斎のイライラメータも上昇の一途。それでもしばらく堪えていると、聡がぼそりと『結婚するんだってよ』と呟いた。思わず、斎は『はぁ? 誰が?』と聞き返していた。その速さ、コンマ一秒を超えた。
「琴菜」
「姉さんが?」
 斎は、親しみを込めて琴菜を『姉さん』と呼ぶ。実際、琴菜の方が二歳ほど年上ではあるが。
「朝、結婚するとかどうの・・・」
 途端、斎はぷっと吹き出した。ケラケラと笑う斎に、聡は大層気分を害された。どうしてそこまで、馬鹿にしたように笑われなければならないのか――聡は、そう彼女に訴えた。
「いや・・・ちょいまち・・・笑いがね・・・」
 ひとしきり笑った彼女は、レモンサワーを一気に飲み干した。空になったコップをテーブルに戻し、今度は急に表情を改めて、真面目な表情を取り繕う。何事かと、戸惑っている聡に、斎はこう宣言した。
「私、子供が出来たの」
「はぁ?! マジかよ! だ、誰の子供だ?」
 最後の方は、声のトーンを意図的に落とす。しかし、そんな聡の気遣いは、斎の笑いにかき消されてしまう。再び、聡は気分を害されて、むっとなっていた。
「おい、なんだよ、さっきから」
「聡、素直すぎるんだから。もう、そんなところにラブラブなんだけど」
 笑いが止まらない。笑いながら、変なことまで口走っている。ここまでくると、聡も怒りを通り越して、不安になってきていた。なにか、とんでもない過ちをしているのではないか――だが、聡にはとんと理解できない。なぜ、斎は笑う。
「本当に気が付かない? 今日、だいたい何の日か、知らないとかそういうオチ?」
「今日って、四月一日だよな。それが?」
「だから、今日はエイプリルフールなのよ。オーケー?」
 聡は、ゆっくりと『エイプリルフール』という言葉を噛み締め、咀嚼する。答えは、いたって単純。聡は、ぽつりと呟いた。
「全部嘘?」
「オーライ。からかわれてんのよ。いつものことじゃん」
「な、なんじゃそりゃぁ!!」
 聡は頭を抱えて、思わず叫んでいた。周りの視線なんて、この時ばかりは気にしていられない。
「普通騙されないと思うだんけど。姉さんにそんな予兆あった? なかったでしょ? 聡、本当に騙されやすいんだから。そこまできたら、天然記念物級じゃない?」
「ふざけるなっ! あんな真剣な顔で言われたら、誰だって信じるだろうが!」
「いや、姉さん、常に真顔じゃん」
 琴菜は、表情を変えないため、常に同じ顔――すなわち真顔である。いまさらなにを言っているのかと、斎に言われるのも仕方がない。
 聡も思わず二の句が繋げず、そうしているうちに少しであるが気分が落ち着いてきた。
「由紀子(ゆきね)に電話してみる」
 こういう時に頼れるのは、いつでも聡の味方である由紀子だけ。諦めが悪いわね、と呟く斎を無視して、電話をかけた。
『はい、どったの?』
 四度目のコールで、由紀子が出る。
「あぁ、こんな時間に悪いな。今、時間大丈夫か?」
『大丈夫だけど・・・なに?』
「いや、それがさ、琴菜が結婚するらしくてね」
『へぇ、そうなんだ。おめでとう』
 あっさりと返されてしまい、難しい表情を浮かべる聡。
『ところでさ、私・・・留学する事になったから』
「ま、マジかよ?!」
『嘘よ』
 即答されてしまった。向こうから失笑が届いてくる。それが聡の心を酷く傷つけた。
「お前なんか嫌いだ」
 そう告げて、一方的に電話を切る。そして、にやにやといやらしく笑っている斎にこう言った。
「斎も嫌いだ! ド畜生ォォォォォォォ!!」
 子供の喧嘩である。彼はそのまま席を立ち、店から出て行った。残された斎は、彼が出て行って少ししてからあることに気づき、『あっ』と呟いた。
「会計・・・はぁ、からかいすぎた報いか」
 仕方がない、と斎は苦笑していた。

 聡は、自宅には戻らず、若草山の山中をひた走る。琴菜の住む、ログハウスを目指しているのだ。深い森に囲まれて、ひっそりと佇むログハウスの扉を、ノックもせずに無遠慮に扉を開けて踏み込む。
「琴菜! いるんだろう?! 出て来い!」
 叫ばなくても琴菜は、部屋に入ってすぐの作業場にいた。相変わらずの無表情で、鼻息荒い聡を淡々と見つめている。ゆっくりとした動作で立ち上がり、聡のほうに歩いていく。
「どうしたの? まるでお猿さんみたい」
「うるさい! 猿、猿、言わないでくれ!」
「そう、ならモンキー」
「英語にしてもダメだ!」
 琴菜のペースに巻き込まれていることに気付き、聡はごほんとわざとらしく咳払い。今日こそは、きっちりと言ってやる! と決意し、琴菜をビシリと指差した。
「お前、結婚するなんて嘘だったんだろう?! ふざけやがって! そんなに人をからかって楽しいか? いや、楽しんだろうな。お前は、そういう奴だもんな。今回のも含めて、よく分かったぜ」
 一気にまくし立てるも、琴菜の鉄壁の無表情は崩れない。何を思っているのか――琴菜の静かな瞳が、聡の行動を写し取る。
「嘘? それが嘘かどうかは、私が決める事じゃない」
 不思議そうにしている聡に、琴菜は一枚の紙切れをポケットから取り出した。それを聡に広げて見せる。そこに躍っている文字を見て、聡は驚愕した。
「こ、婚姻届?! い、いや・・・待て、片方が空欄じゃないか!」
 妻になる人の欄は埋まっているが、夫になる人の欄はまったくの空欄。こんな手で騙されてなるかと、聡が食いかかろうとしたとき、琴菜が静かに告げた。
「当たり前じゃない。ここの欄は、聡が埋めるんだから」
「へっ? お、俺が?」
 何を言っているんだと、一転して戸惑う聡。思わず、一歩後ろへと逃げてしまう。
「どういうことだよ。なんで俺がお前と・・・」
「嫌?」
「そ、そういうわけじゃないが、その、なんだ」
 言葉にならずに、困り果てる聡。琴菜が嫌いというわけではない。ただ、今までそういう対象で見ていなかった――それさえも嘘である事に聡は気付く。琴菜を意識していなかった時なんてなかった。だが、何かが違う。決定的なものがない。
「そう・・・嫌なんだ」
「だから、違う・・・」
「なら、書いてよ」
「それも・・・」
「どうして? 私・・・」
 迫ってくる琴菜。後ろへと逃げていく聡。しかし、いつまでも逃げ切れない。彼の逃亡を、壁が阻止する。いよいよ、書かないとこの場を収拾できない――そんな所まで追い詰められた時、どこからともなくピピピッという電子音が響いてきた。なんだ? と疑問に思っていると、琴菜が急に距離を開けた。
「残念」
 そう呟いて、婚姻届をビリビリに破いてしまう。聡は、はっとなり、携帯電話で時刻を確認すると、ちょうど今、日付が変わったばかりであった。そう、エイプリルフールが終わってしまったのだ。
「お、お前・・・全部、嘘だったのかよ! くそっ、この悪女めっ!」
 憤る聡であったが、琴菜は至って冷静に聡に告げた。
「本当に嘘だったと思う?」
 その言葉の真意が分からず、聡の怒りは空回り。それはどういう意味だ? と問う前に、琴菜は奥の部屋へと消えていってしまった。
「・・・あぁもう、意味わかんねぇ」
 聡は頭を抱えて、うずくまる。

 そんな嘘か本当か分からない、琴菜の言葉に惑わされたエイプリルフールな一日。


 END

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